日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 203
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発表要旨
1995年以降の川崎市における単身世帯の年齢構成の変化
*桐村 喬
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抄録
I 研究の背景・目的
 近年の晩婚化,非婚化の進展を背景に,単身世帯の占める割合が増大してきており,その傾向は大都市圏においてより顕著である(藤森2010).かつて10歳代や20歳代を中心とした年齢構成であった大都市圏の単身世帯は,このような社会的背景のもとで,大きく変化してきているはずである.
 そこで本発表では,川崎市を事例として,近年の大都市圏における単身世帯の年齢構成の変化とその地理的な動向および背景の解明を試みる.分析の空間単位は町丁・字であり,国勢調査の小地域集計結果(1995・2000年)と,国勢調査に関する川崎市の独自集計結果(2005・2010年)から,年齢階級別の単身世帯数を把握する.東京大都市圏に位置する川崎市は,インナーエリアの性格を備える既成市街地や,高度成長期以降に開発された大規模住宅団地など,大都市圏にみられる様々な特徴をもつ地域で構成されており,分析の対象地域として適している.
II 年齢構成の基本的パターンの抽出
 まず,町丁・字単位での単身世帯の年齢構成の基本的なパターンを把握するために,年齢構成の類型化を行なう.2010年に関しては年齢不詳の単身世帯が多いことから,配偶関係が不詳である人口の年齢階級別の構成比に基づいて補正したものを用いる.時系列的な変化を検討する際には,比較する期間において境界変更の少ない町丁・字のみを分析対象にする.
 1995年から2010年までの4時点の単身世帯の年齢階級別構成比と単身世帯の密度に対してクラスター分析を適用した結果,6類型が抽出された.このうち,所属地区数が僅少な類型を除いた5類型は,青年中高年型,青年壮年型,学生特化型,高齢特化型,青年特化型と解釈できた.
 類型の分布をみると,1995年時点では西部を学生特化型が,中部を青年特化型,東部を青年中高年型がそれぞれ占めていたが,2010年には,主要な鉄道駅周辺に青年特化型が残るほかは,青年中高年型と青年壮年型で占められるようになっている.
III コーホート残存率からみた単身世帯の増減
 次に,1995~2000年,2000~2005年,2005~2010年の3期間について,それぞれ時系列比較が可能な町丁・字を対象に,コーホート単位で単身世帯の残存率を算出した.
 各コーホートの残存率は多くの町丁・字で高まってきており,特に1995~2000年の残存率と,2000~2005年の残存率との差が目立っている.このような残存率の上昇は,単身を継続する世帯や新たに単身化した世帯,転入した単身世帯の増加を示す.期末時点の年齢が30歳代前半のコーホートに注目すれば,1995~2000年の残存率は,鉄道駅から離れた地域で高い傾向にあり,川崎駅周辺を除く鉄道駅周辺で低くなっている一方,2000~2005年の残存率は,鉄道駅周辺でも高くなっており,単身世帯の増加の地理的な傾向は大きく変化している.一方,期末時点で60歳代後半のコーホートに着目すると,いずれの時点でも西部で残存率の高さが際立つものの,2005~2010年の残存率は,鉄道駅周辺でも非常に高くなっている.
IV 単身世帯向け賃貸住宅の供給動向と年齢構成の変化
 コーホート残存率の高まりが示す単身世帯の増加のうち,転入による増加は,単身世帯向けの賃貸住宅(以下,単身賃貸住宅)の供給動向との関係が深いものと思われる.例えば,1995年時点で青年壮年型であり,2000年以降青年特化型である川崎区本町1丁目(川崎駅周辺)の単身世帯数は,1995年の273世帯から2010年には807世帯まで増加した.増加数の大きさから本町1丁目における増加の主要因は転入によるものと考えられ,この間に10階建以上の単身賃貸住宅が少なくとも4棟(計312戸)建設されていることから,単身世帯の増加および転入の多くは高層の単身賃貸住宅の供給によるものと考えられる.
V まとめ
 1995年の川崎市における単身世帯の年齢構成は,学生ないしは青年に特化したものが中心であったが,2010年までに,高層の単身賃貸住宅が多数供給された主要な鉄道駅周辺を除いて年齢層は全体的に上昇した.コーホート単位で単身世帯の残存率をみると,2000年を境に各コーホートの残存率が高まっていることが示され,多くの町丁・字で晩婚化や非婚化,離婚や死別による単身化のような世帯動態の変化や,単身世帯の流入によって,20歳代後半以上のほとんどの単身世帯の年齢階級の厚みが増してきていると考えられる.
参考文献
 藤森克彦2010. 『単身急増社会の衝撃』日本経済新聞出版社.
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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