抄録
東北日本弧南部に位置する会津盆地は,奥羽脊梁山脈西方に多数発達する内陸盆地群の一つであり,他の盆地同様に南北方向の活断層を境に周辺の丘陵・山地列と接する.会津盆地西縁には,明瞭な活断層である会津盆地西縁断層帯(活断層研究会,1991; 福島県,2002)が存在し,断層帯西側には会津盆地西縁丘陵が発達する.中新世以降の長期にわたる会津盆地の発達史は鈴木ほか(1977),山元ほか(2006)などにより議論されており,断層帯の最近数万年間の活動については福島県(2002)により報告されている.しかし中期更新世以降の盆地発達史や断層帯の活動史については,それらを明らかにする上で重要な堆積物の分布が盆地内では地下に限られるため不明な点が多く,充分に明らかでない.一方,栗山・鈴木(2012)は,盆地中西部に位置する会津坂下町において断層帯を挟み,丘陵と盆地地下で129 kaに降下年代をもつ田頭テフラ(鈴木ほか,2004; 青木ほか,2008)を検出し,盆地発達史や断層帯活動史解明のための知見を得た.本研究ではより古い年代にさかのぼり同課題を議論し,盆地側での断層による変形を明らかにするため,2012年5~7月に会津坂下町中心部付近の盆地内2地点において,深度29 m(AB-12-1:会津坂下町字上口)と深度99.5 m(AB-12-2)のオールコアボーリングを実施した.本講演では,多数のテフラが検出されたAB-12-2から順に調査結果を報告する.[AB-12-2:会津坂下町字中岩田]断層帯から東方約900 mの標高179.09 mの地点である.深度48-50.46,54.49-56.47,76.81-84.74,88.76-98.59 mに礫層があるほかは,シルト・泥炭層・砂からなり,多数のテフラを含む.これらテフラの特性を検討した結果,深度4.09 m(いずれもテフラ基底)に沼沢沼沢湖(Nm-NM, 5.4 ka; 山元,2003),17.05 mに姶良Tn(AT, 29-30 ka; 町田,2011),30.12 m に大山倉吉(DKP, 62 ka;長橋ほか,2007),31.63 mに沼沢金山(Nm-KN, 62-65 ka;栗山・鈴木,2012),45.75 m に田頭(TG, 129 ka),88.34 m に砂子原松ノ下(Sn-MT, 180-260 ka;鈴木ほか,2004)の各テフラを検出した.上記のうちTGとSn-MTは火砕流堆積物ないしはラハールとして堆積し,ほかは降下テフラとして堆積した.[AB-12-1:会津坂下町字上口] 断層帯から東方約2.5 kmの標高177.32 mの地点である.本コアで認定されたテフラは深度14.72 mから検出されたATのみである.AB-12-2で深度4.09 mに検出されたNm-NMが本コアで検出されないのは,AB-12-1の掘削地点が鶴沼川沿いの沖積低地であり,深度6.7 mまで続く砂礫層(沖積低地堆積物)の堆積に伴う侵食で削剥されたものと考えられる.[堆積速度と断層帯の活動]AB-12-2での堆積速度は,地表・Nm-KN間で0.50 m/kyr,Nm-KN・TG間で0.22 m/kyrと栗山・鈴木(2012)で得られた値とほぼ同じである.また,Sn-MTの噴出年代は180-260 kaと幅があるが220 kaとした場合,TG・Sn-MT間では0.35 m/kyrとなる.いずれにせよTG・Sn-MT間とTG降下以降で堆積速度に大きな変化はない.仮に断層帯低下側である盆地床の堆積速度が断層帯の活動度に依存すると過去約20万年間で大きな変位速度の変化は無かったと考えられる.なお,ボーリング調査は,文科省科研費「変動地形マッピングに基づく伏在活断層・活褶曲と地震発生様式の解明」によった.引用文献: 青木ほか 2008.第四紀研究 47: 391-407.福島県 2002.会津盆地西縁断層帯に関する調査成果報告書.活断層研究会 1991.新編日本の活断層.栗山・鈴木 2012.日本地理学会発表要旨集81: 147.町田 2011.第四紀研究 50: 1-19.長橋ほか 2007.第四紀研究 46: 305-325.鈴木ほか 1977.地質学論集 14: 17-44.鈴木ほか 2004.地学雑誌 113: 38-61.山元ほか 2006.喜多方地域の地質.山元 2003.地質調査研究報告 54, 323-340.