抄録
局地風の研究は過去から多く行われている.近年では,数値気象モデルを用いた研究も盛んに行われている.数値モデルを高解像度化することで,局地風と周辺の詳細な地形との関連を調査することができる.しかしながら,数値モデルが高解像度化することで,急峻な斜面を含んだ計算を行わなくてはならない.従来地形に沿った座標系(Z*座標系は)が使われてきたが,この座標系では格子が斜交しているため,急峻な斜面を表す場合は誤差が大きくなってしまう.一方,格子が直交している一般座標系の場合,格子の斜交に伴う誤差を軽減できる. 本研究では,局地風をはじめとする複雑地形上の局地気象を再現することができるような,一般座標系を採用した局地気象モデルを開発することを目的とする. 本研究では,局地気象モデルの基礎方程式系として,非弾性近似方程式系を採用した.座標系は一般曲線座標系を採用し,格子系は反変速度を格子境界に定義するコロケート格子を採用した.数値計算アルゴリズムはSMAC法,時間差分スキームは移流項に省メモリー型3次精度ルンゲクッタ法,その他の項には前進差分を採用した.空間差分スキームは2次精度中央差分法を採用した.現在は力学過程の開発を中心に進めているため,物理モデルはできるだけシンプルなものを選択した.具体的には,地表面フラックスはバルク法,地表面温度の計算は強制復元法を採用した.乱流過程はMellor and Yamada 乱流クロージャーモデルLevel 2を採用した.構築した力学モデル,座標変換,境界条件の検証を行うために山岳波の再現実験を行った.その結果,伝播する山岳波の位相と波長を再現できた.力学モデルと物理モデルの結合の検証には,混合層の発達実験を行った.混合層の日変化をうまく再現できたうえに,混合層高度も理論値とほぼ一致した.力学モデル,座標変換,物理モデルの検証には,谷風循環の再現実験を行った.既存の数値モデルに遜色ない結果が得られた.一般座標系を採用した数値モデルは,格子のとり方によっては谷で格子が小さくなり、計算不安定を起こしやすくなる.また,格子が曲がっているため,雨粒の落下や層間の放射伝達の組み込みは容易ではない.今後は,雲微物理モデル,大気放射モデルの有効な組み込み方法を模索するとともに格子生成法の開発を進めていく予定である.