抄録
現在、各国における地理教育で育成する市民の方向性として「持続可能な社会を形成」するための市民の育成が挙げられる(金、2012)。これは国連の2002年の総会で「国連持続可能な開発のための教育の10年(2005-2014)」(UNDESD)を採択したことが契機であり、日本においても新学習指導要領(文部科学省、2010)に「持続可能な社会」や「持続可能性」等の文言が盛り込まれた。しかしながら、日本の取り組みは、学習指導要領にESD関連の用語を見出すレベルにとどまっている。一方、世界に目を向けた場合、(教科)地理におけるESD実践をめざして、国際地理学連合・地理教育委員会(IGU-CGE)が「持続可能な開発のための地理教育に関するルツェルン宣言」(大西訳、2008)、を発表し、またESD先進国であるドイツ連邦共和国では、2006年(最新は第7版、2012年)にドイツ地理学会(DGfG)が日本の学習指導要領にあたる『Bildungsstandards im Fach Geographie für den Mittleren Schulabschluss』を公表した。これらの文献にはESD実践となる要素が多々含まれている。本発表では、IGU-CGEとDGfGの動向を手がかりに、地理教育におけるESD実践の方向性について提案を行なう。憲章等にみられるESD実践のための要素 地理教育におけるESD実践に当っては、現代諸問題に対して地域スケールを変化させながら分析を行ない、身近な地域で行動できる資質の育成が求められている。IGU-CGE(2007)の地理的能力(知識、技能、態度形成)、DGfG(2012)の地理的コンピテンシー(教科特有知識、空間認識、知識・方法論の習得、コミュニケーション、評価、行動)は、この資質の育成に貢献できる。特に(教科)地理には地域スケールを変化させて地域や問題を捉えるという特有の分析視点があり、地域スケールに応じて適切に行動できる資質を育成できると考えられる。またDGfG(2012)では、空間変革をめざす立場から、空間を構成物としてとらえ、自然、人文地理学の法則や両者の相互依存関係から、空間を人間の活動によって形成された構造物として捉えている。つまり空間を構造物として捉えるための詳細なコンピテンシーが設定されており、現代諸問題をどのような観点から分析するか、特にESDは社会、経済、自然の各側面における持続可能な開発をめざすことから、地理学の持つ学際性を活用した分析能力を育成することができると考えられる。