日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 807
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発表要旨
JR御殿場線沿線地域の工業立地の変容
交通環境の変化が与える影響
*稲田 康明
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抄録
 今日日本のものづくりは、グローバル化の中で景気低迷が続き、製造業が海外へ拠点を移す動きが加速し、産業の空洞化が危惧される。産業構造は戦後の外部環境の変化によって様変わりしてきている。国の工業政策は高度経済成長を通じて国土の均衡ある発展をめざし、地方分散化を図り、地域開発と産業政策が講じられてきた。太平洋ベルト地帯は交通網の発達から工業集積が見られる。特に、工場立地については、交通手段による影響は大きいと言われる。そこで、本研究では、日本の大動脈が通り変化の大きな地方都市である静岡県の工場立地の変容に注目し、都市の成長と相互関係にある交通の発達により、工場立地の推移とその要因の変化、さらに自治体の政策との関係を明らかにするものである。 本研究の対象地域は、静岡県東部のJR御殿場線沿線地域の7市町のエリアである。この地域は製造業の比重が高く、企業からの税収との関係から、今日の地方財政を取り巻く環境が悪化しても、比較的この地域が裕福な自治体となっていることから調査対象とした。調査は現地踏査や自治体等からのデータ収集、企業アンケート調査、訪問調査を実施した。 各種調査データを整理し、地域に立地する産業の実態を時系列で把握し、その特性について考察をする。交通網を通して整備時期と業種別工場の立地要因を把握し、その立地と自治体との支援体制の関係を検証した。また、アンケート調査からは、立地企業の進出にあたっての意思決定と従業員の居住地と通勤手段などについても、考察した。3. 研究の結果3つの知見が得られた。第1に、モータリゼーションの進展が交通環境に変化を及ぼし、工場立地の郊外化をもたらし、道路整備とともに北部の農業地域への立地が進んだ。環境対策として市街地内の土地利用規制による工業系用途地域に緩やかな集積と郊外への集団化による工業団地が造成された。工場立地場所は幹線道路や高速道路インター周辺が重視され、インターチェンジから平均5km内に多く集積が見られた。第2に、アンケート調査結果から、立地要因については、時代とともに変化が見られた。一方で、企業にとって土地取得の形は変えつつも、用地の問題が一番多く、重要視していた。また、交通の利便性は鉄道から自動車に移ったが、企業は道路整備が前提条件となっていた。立地要因については、アンケート調査結果やインフラ整備などから3期に分けた。高度成長期(戦後~1975)は「労働力」と「原材料」、経済安定期(1976~2000)は環境制約や事業規模拡大から用地の確保としての「工業団地の存在」、低迷期(2001~現在)は自治体の「行政支援策」が特徴として上げられる。業種別では、食料品・飲料系工場が工業用水や市場の近接性、交通の利便性、電気機械系工場が用地の広さ、電子機器系工場が交通の利便性、輸送用機械系工場が交通の利便性のほか、関連工場への近接性、用地の広さ・価格に特徴づけられる。第3に、工場立地が地域に及ぼした影響を分析すると、企業からの税収が自治体財政に影響を及ぼし、この地域の裕福さが示され、財政力指数に表れた。とくに、業種が偏った場合には景気の変動で税収減少が起こることもあるが、この地域は比較的多業種の集積により、安定的な税収に繋がっている。以上の3つの知見を総合すると、交通網の整備は工場立地を促し、農業地域を工業化させ、地域発展に貢献している。また、この地域の工場立地要因は「交通の利便性」に係る近接性と「用地の規模や価格」に特徴が見出されたが、企業の進出意思決定に際しては、その他の複数の選択肢の中で立地決定していた。特にその地域の持つポテンシャルや地域イメージなどにも強い関心があった。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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