日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 809
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発表要旨
産学連携の地域間比較分析
*野澤 一博
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抄録
多くの地域において、地域経済の活性化のために地元大学と地域企業がより効果的に連携できるようにすることが求められている。地域でイノベーションを起こすためには、地域において技術吸収力に優れた研究開発型企業の存在が欠かせない(野長瀬2011)。そのためには、大学の知の活用がポイントとなる。そこで、文部科学省科学技術政策研究所では、地域企業と大学との関係の現況を把握する調査研究を展開している。昨年度、鹿児島県をケースに地域企業を対象に質問票調査を実施した(外枦保・中武2012)。本年度は、山形県、群馬県、長野県に地域を拡大し3県において地域企業に対し産学連携の状況調査を行い、地域の産学連携の特徴を抽出した。 以下に3地域での比較分析の結果概略を示す。業種について、3地域とも比較的類似した産業構成になっており、「金属製品工業」、「一般機械工業」、「電気機械工業」での産学連携が共通的に多かった。県別に見ると、山形県で「食料品」製造業、群馬県で「繊維工業」、「輸送量機械」製造業、長野県では「「電子部品・デバイス」製造業の比率が相対的に高かった。 企業規模について、3地域とも従業員数50人以上の企業は産学連携有りとの回答比率が増加する傾向が見られた。但し、群馬県・長野県においては、従業員50人未満の企業でも産学連携に取り組む企業が一定数あった。資本金で見ると、資本金5000万円以上の企業で産学連携が増える傾向にあった。年間売上高では群馬県、長野県では1億円以上で産学連携ありとの回答が増えるが、山形県では10億円の企業で産学連携有りが増える傾向にあった。 施設の立地について、県外企業の産学連携の取組に地域的な違いが見られた。群馬県では県外企業が産学連携に比較的多く関わっていた。長野県では、県外企業は県内での産学連携には比較的消極的と言える。山形県では県外企業の産学連携の取組状況に大きな違いは見られなかった。 マネジメントについて、新製品(技術)の開発を行っている企業は、産学連携を行っている割合が高いが、産学連携を行っていない企業も一定数あった。そのような新製品(技術)開発を行っているが産学連携していない企業は、同業者や他業種企業、取引先などとコンタクトを図る一方、公的機関とのつながりが比較的少ない傾向にある。 地域のイノベーションは、イノベーションのドライバーである地域企業の技術吸収能力に左右されると言ってよい。社外にある知識を探索、収集、吸収するためには、人材、時間、費用というコストがかかるため、産学連携を行う企業は、ある程度の企業規模が必要である。一方で、従業員数規模が小さくても大学やその他機関と接触を図り、新製品・新技術の開発を模索する企業群もある。地方圏で新製品・新技術の開発の担い手になる企業は希少資源である。そのような企業を増やすために、地方圏で産学連携をしている企業の組織やマネジメント特性を分析し、地域企業が研究開発志向の企業に転換できる方法論を検討する必要がある。また、新製品・新技術を開発している企業でも産学連携を活用していない企業群があった。地域企業の中には、同業他社、他業種企業、親会社、取引先など、様々な企業と接触を図り、新製品(技術)の開発を行っていたものもあった。地域におけるイノベーションの取組は必ずしも産学連携という形態をとるとは限らない。イノベーションで地域経済を活性化させるためには、個々の企業間の線でのつながりではなく、地域内での知識のスピルオーバーをより広範に図っていくことが重要である。そのためには、地域企業に対し、産学連携への参画促すアプローチの他に、企業間で面的につながることを促し、地域における研究・技術開発のコミュニティー形成を支援していくことが検討できる。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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