日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 820
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発表要旨
境界永久凍土の分布モデリング
*石川 守ヤムヒン ジャンバルジャン山橋 いよウェスターマン セバスチャンエッツェルミューラー ベルンド
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抄録
永久凍土分布図 永久凍土は全陸地の約20%に分布し、様々な時間と空間規模で寒冷圏陸域における水文・植生・地形過程に深く関与している。近年の温暖化は永久凍土を衰退させ、それを因果とした人にとっての環境問題を、潜在的(地球規模での炭素循環過程の改変による温暖化加速)にも顕在的(土地浸食の加速化、水・生態系資源の劣化など)にも引き起こすことが懸念されている。これらの諸現象を正しく理解するには、永久凍土の安定性を空間的に示す永久凍土分布図が重要となる。分布図の凡例として地温、活動層厚、面積率(連続的・不連続的・点在的)などが用いられる。気候モデル研究でよく参照される環北極域永久凍土・地下氷分布図は面積率で表現している。一般に、永久凍土の分布はGISやリモートセンシングなどを援用してグリッドベースでモデル化される。ここでは、単位グリッド内における永久凍土の支配因子群(地形、植生、積雪、気温)が均質であるという条件を前提としている。この仮定は、広大平坦な連続永久凍土帯(ツンドラ,タイガ)ではある程度当てはまり、実際にモデル結果と点ベースの現地観測値との間に良い対応があることも示されている。その一方で、グリッド内での不均質性が顕著な山岳域や不連続永久凍土帯などへの適用は現実的ではなく、この問題は限りなくグリッドサイズを小さくしても決して解決されることはない。モンゴルの永久凍土環境ユーラシア永久凍土帯の南限に位置するモンゴルの永久凍土の分布や地温には、極域永久凍土と山岳永久凍土の両特性を併せ持つ。演者らが実施した同国永久凍土帯のほぼ全域を網羅する約80地点でのボアホール(BH)永久凍土温度観測によると、北部の連続的分布域では-2℃を下まわるような寒冷な永久凍土が存在する一方、南部の点在域では永久凍土の温度は-1 ~ 0℃と温暖であった。このような南北傾度の他方、不連続帯から点在帯へと遷移する領域ではローカルな地形起伏(北向・南向・谷底)や植生被覆(草原・森林)、土壌の湿潤度、地下氷量などに対応して地温は大きくばらついた。年間の地温プロファイルからも永久凍土の維持形成メカニズムがローカルな条件に応じていることが示された(冬季冷気湖・森林による日射減・高含氷率層による地温振幅の減衰)。さらに高解像度リモートセンシング(MODIS)地表面温度とBH観測地温との間に有意な相関を見出し,これによりBH観測に基づく分布モデリングの展望が開けた。次世代永久凍土分布図の作成に向けて演者らは、これまでに蓄積した上述の観測的知見に基づき、モンゴルを含む北東ユーラシア永久凍土帯南限域における永久凍土分布図を不均質性や曖昧性をも考慮した概念に基づき描き直そうとしている。説明変数としての空間地理情報(地形・植生)や気候値などと永久凍土の有無・地温、リモートセンシング地表面温度などとの間で回帰分析を行う。新たな分布図は永久凍土が存在する確率をグリッド単位でマッピングしたものになる(Map1)。さらにMODIS地表面温度と地理的要素との対応を踏まえ、熱伝導式やTTOPモデルを介して永久凍土温度分布図を決定論的に作成する(Map2)。これらは永久凍土の熱的安定性・脆弱性を高精度で評価できるだけでなく生態・水文過程との相互作用評価にも応用できるものとする。当日の発表では境界域や山岳域での永久凍土分布研究のレビュー、それを踏まえた上で今後の解析研究計画について紹介したい。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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