抄録
1.はじめに 日本列島付近の気候系は,梅雨と秋雨(秋霖)を加えた『六季』で特徴づけられ,しかも,それら六季間の遷移としての『中間的な季節』も独特な特徴を示す。例えば,秋から冬への遷移の過程において,11月頃の北陸等での「時雨」に関連した独特な季節感にも注目される(加藤・佐藤他 (2011,環境制御,33号)の学際的授業の取り組みも参照)。一方,日本付近は,年間を通じて前線帯に対応し,日々,低気圧や前線の影響を受けやすい。しかし,大気場の大きな季節遷移に伴い,梅雨に関連した季節進行だけでなく,暖候期を通して,比較的細かいステージの違いに伴い,降水量や降水特性にも多彩な違いが見られる。 ところで,地球温暖化等に伴う日本付近の地域規模の気候変化への応答に関しては,このような季節サイクルをベースとしたものであり,その的確な予測や知見の普及のためには,上述の季節サイクルに関する詳細な気候学的研究としての理解が不可欠である(なお,それをベースとする学際的な取り組みにより,文化理解教育へも繋げうる)。 そこで,本発表では,上述の日本付近の多彩な季節サイクルを詳細に理解して教材化するための学際的知見の統合の一環として,まずは気候学的側面から,梅雨以外の時期に関する本研究グループで行った解析結果(光畑他,森塚他(それぞれ気象学会2012年春の全国大会で口頭発表。前者は4月頃,後者は9月頃の現象に注目)等)も踏まえ,多降水日(ここでは50mm/日以上の日を指す)やその中での対流性降水にも注目して,降水の特徴の暖候期の中での季節的違いに関する体系化を行った。 2.降水の季節サイクル(多降水日の出現状況に注目して) 梅雨最盛期には,よく知られているように,西日本側では組織化された積乱雲群に伴う集中豪雨も頻出し,降水量も大変多い。但し,東日本側では,そのような降水イベントによる寄与が大きくなく,総降水量も西日本側に比べて小さい。しかし,東日本では,総降水量や多降水日の降水の総降水量に占める寄与が,梅雨期よりもむしろ9月頃が大きかった(1991〜2009年の日降水量データの統計。それぞれ,関東付近での平均,関東北部〜東北中南部付近での平均)。しかも興味深いことに,東日本における9〜10月頃には,時間降水量2〜10mmの『普通の雨』が主に寄与する多降水日も,全多降水日の半分程度も見られた。しかも,これらの多降水日だけでなく,10mm/h以上の降水の寄与がメインの多降水日でも,成層が安定な場合は多かった(ここでは,θe500 - θe地>3K)。以上のように,東日本の9〜10月頃には,多降水日でも,西日本の梅雨前線付近と違って,地雨性の要素も少なくないことになる。 また,東日本の成層が安定な(θe500-θe地上≦3Kとして抽出)多降水日の場合,台風もしくは温帯低気圧が中部日本〜関東付近に見られることが多かった。しかもその時,発達中の傾圧不安定波的な鉛直構造を示し,上層トラフの東側の南風成分の領域(700〜500hPa面)が,本州南岸沖まで伸びていた。 一方,4月の南九州の鹿児島では,関東の東京や九州北西部の長崎に比べて総降水量が多く,東京の梅雨期と同等な220mmに達していた。それは,『多降水日』の降水の占める寄与が80mmと大きい点を反映していた(『多降水日』の出現頻度は,平均して毎年1回程度の出現頻度ではあるが)。なお,1990〜2009年の事例解析によれば,このような鹿児島での多降水日には,九州を通過する温帯低気圧の暖域や前線付近に鹿児島が位置し,一過性ではあるが,積乱雲に関連した降水によって上述の『多降水日』となった事例が多かった。 3.日本付近の下層水蒸気場や傾圧性の季節サイクル(以下は略。具体的にはpdfで添付する予稿を参照)