日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P042
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発表要旨
カスケード山脈の地すべり地に形成された草原・低木林の分布とそれらの野生生物の生息地として役割
*高岡 貞夫F. J. スワンソン
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抄録
北アメリカ西岸、カスケード山脈の西斜面(ウェスタン・カスケード)は、全体的に常緑針葉樹林に覆われるが、一部では草原や低木林などの非森林性植生が成立しているところがある。これら非森林性の植生が占める領域は面積こそ小さいが、野生生物の生息場所として重要であり、森林が卓越する本地域における生態的機能が注目される。本稿では、H. J. アンドリューズ実験林における非森林性植生の分布の特徴を特に地すべりとの関係において検討し、またそれらが野生生物の生息地として果たす役割について予察的に観察した結果を示す。 H. J.アンドリューズ実験林(面積6400ha、標高410~1630m)は、オレゴン州中西部のカスケード山脈内に位置する。ダグラスモミ(Pseudotsuga menziesii ssp. Menziesii)が優占する温帯針葉樹林が広く覆うが、標高約1000m以上では亜寒帯針葉樹林(Abies proceraやTsuga mertensianaなどが優占)が成立している。2000mmを超える年間降水量の約70%は11月~3月の期間に集中し、乾燥する夏季には山火事が多発する。2009年撮影オルソ空中写真(1m)と2008年撮影LiDAR(1m)から作成された植生高データ(1m)を用いて、湿性草原、乾性草原、岩塊地、ハンノキ(Alnus crispa ssp. sinuata )低木林、カエデ(Acer circinatum )低木林、ヤナギ(Salix lapponum )低木林の分布図を作成した。これら非森林植生は1105個あり、面積の合計は372haで対象地域全体の2.6%にあたる。カーペンター山南方の地すべり地(107ha)には、46個の草原・低木林が分布しており、周囲に比べて高い密度で非森林植生が形成されていた。現地調査とLiDARに基づくDEMによる地形観察結果と比較すると、これらの非森林性植生は、主滑落崖、主滑落崖前面の巨礫原、巨礫からなる小丘、副次的に形成された小滑落崖、閉塞凹地などに形成されていた。地すべりの発生年代を特定する試料は十分にないが、移動体下部の堆積域(押し出し部)に存在する小凹地内の地表下105cmで採取された炭化木片と、地すべり地末端に形成された沖積錐の堆積物層相が変化する深度で採取された炭化木片の年代は、それぞれ895±23 cal yr BPと3141±26 cal yr BPであった。非森林植生のうち、草原を利用するチョウ類やホリネズミ(Thomomys bottae)に関しては従来、報告がなされてきた。本研究では、低木林や岩塊地を利用する動物に関して観察を行った。その結果、ハンノキ低木林とカエデ低木林はハチドリ(Stellula calliope)とシマリス(Tamias townsendii)に利用され、低木林の隣接する岩塊地はナキウサギ(Ochotona princeps)に利用されていた。本地域では、林野火災によっても低木林が形成されるが、それらは植生遷移の進行とともに消滅する。地すべり地において不安定な斜面や未発達な土壌の斜面に形成されている低木林は、より永続性のある生息地となっていると考えられる。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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