日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P049
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発表要旨
谷川岳一の倉沢本谷の侵食地形
*平塚 延幸
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抄録

【調査目的と問題意識】谷川岳一の倉沢にモレーンが存在するとして、氷期に氷河が存在したと推定されている(小疇・2002)。侵食営力・運搬作用と堆積物は整合性があり、侵食地形の実態から下流部の堆積物の性格も明らかになる。本地域での雪渓消長後、基盤上の侵食作用の状態を観察調査した。【調査および調査地域の概要】谷川岳一の倉沢本谷の堆雪域は3地域に分類できる。①本谷滝沢下部②本谷二の沢合流部③テールリッジ末端周辺。調査地域は③を対象とした。一の倉沢に氷体が存在したとするならば③の地域はその影響があると考えた。【調査結果】(a)烏帽子スラブ及び衝立スラブはアバランチシュートであり全層雪崩により形成される(下川・1980)。各スラブはシーティング(金子・1972)が明瞭で条痕は見られない。衝立スラブと衝立沢間のリッジ末端は全層雪崩・積雪グライドの影響による鈍頂山稜がある。(b)衝立スラブと衝立沢合流部は地形変換点を形成し雪崩堆積場となる。河床にはいくつかのポットホールが存在する。河床には研磨痕はみられない。(c)テールリッジ末端はシーティングが見られ、雪渓(残雪)グライドが卓越するスカート状の露岩斜面が広がり本谷に接する。本谷には滝壺上部が水流侵食で深掘りされた変形ポットホールがみられ、雪渓(残雪)滑りと圧力による水流変換と高圧水流が考えられる。(d)本谷縦断形は急斜面が垂壁で河床へつながる場合と、急斜面が水流研磨面に移行する場合とに大別出来る。河床に節理に制約されたポットホールが存在し、水流研磨平滑面を形成する。水流研磨面に擦痕はない。(e)平滑斜面を作った水流は、右岸からの小リッジをけずり込み滝窪を作る。リッジ下流側は水流と雪渓グライド両営力により磨かれた羊群岩状地形を形成する。(f)V字状に狭まった場所に滝中腹が水流で岩盤が丸く削り込まれて、水流が空中に舞う滝がある。同様な微地形がいくつか存在し水流の落ち込み位置が変化することがわかる【調査結果のまとめ】(1)アバランチシュートは、シーティングの影響を受け、全層雪崩および水流による研磨が卓越し、三日月型などの氷食痕(岩田・2011)は見られない。(2)アバランチシュートに挟まれたリッジは平坦化作用を受けているが、現在でも全層雪崩や積雪グライドの影響化にある。(3)雪渓消長時期に対応した雪渓グライド作用が斜面に見られる。(4)本谷の縦断形は、雪渓グライド影響下の斜面→岩屑剥離が卓越した岩角の目立つ垂壁→水流研磨による河床という変化と、斜面から河床への移行という二つの形態をとる。水流研磨斜面や雪渓グライド卓越斜面には、氷河研磨痕や氷河擦痕などは確認できなかった。(5)水流は節理に影響されて曲流し、またポットホールを作る。水流研磨によるスプーンカット状微地形が見られる。これらは雪渓・積雪の圧力による水路変換・高水圧を受けた結果と考えられる。 谷川岳主稜線には化石周氷河性平滑斜面・化石雪窪が広がり、16000年以前には、それらは標高1300-1400mに位置していた(高田・1986)。周氷河性地形の標高低下は標高1000m付近の谷地形に影響を及ぼしたに違いない。一方、日本の多雪化は12000年以降に始まり7000年には完了した(小泉・1982)と言われる。今回の調査では、一の倉本谷には顕著な氷河侵食の作用は見られない。これらをどのように解釈するか、上流部の調査を含めて課題が残されている。

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