日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P061
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発表要旨
ネパール・テライ低地における雨季の地下水ヒ素汚染
*濱田 浩美中村 圭三駒井 武大岡 健三谷口 智雅谷地 隆松本 太戸田 真夏松尾 宏
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抄録

本研究では、テライ低地のナワルパラシ郡パラシの東西約6km、南北約10kmの地域で、地域内に散在する全ての集落で各2箇所以上の井戸を調査地点とした。調査は、2012年8月19日から24日の6日間実施し、各井戸では水温・pH・EC・ORP・DO・簡易AS、採水のほか、測定できる井戸では地下水位、井戸深度を測定した。また、採水した試水は、アルカリ度を現地ホテルで測定し、その他の項目は日本に持ち帰り、イオンクロマトグラフおよびICPM-8500で分析した。 今回の調査で測定できた井戸は、25ワード(集落)の中の55本であり、うち浅井戸の開放井戸は17本であった。この地域の井戸は伝統的な開放井戸と15年ほど前から掘削の始まった打ち込み井戸に分類される。開放井戸の掘削深度は10m未満で今回の調査における地下水面標高は101.64mから114.35mでその差は12.75mであった。この時期は雨季であるため、湛水深は乾季の0.4~4.35mと比較して大きく、1.61m~7.80mであった。打ち込み井戸の深度は実測できないが、聞き取り調査の結果、5.4~52.5mと多様である。現地観測で得られた簡易測定による最高ヒ素濃度は、Aharauli (No.28)における400ppbである。この集落では他の井戸でも500ppb以上の値が得られており、この地域が高濃度ヒ素地帯であることを示している。また、少し距離をおいたKachanhawa(No.11)とKunawar(No.12)では350ppbの井戸があるほか、Khokharpurwa(No.4)、Suryapura(No.5)のワードでも300 ppbの井戸が存在していた。この地域の地形は平坦で地下水流動は極めて小さく、東西方向に高濃度のヒ素を溶出する地質が存在していると考えられる。この地域の帯水層は数m~6m付近の浅層地下水、12~23m付近の第2帯水層、30~50m付近の第3帯水層に分類できることがわかった。この中で浅層地下水の第1帯水層のヒ素濃度は10~100ppbとかなり低い。また、第3帯水層は0~25ppbと極めて低い濃度であった。一方、第2帯水層では10~400ppbの濃度を示し、この地域の汚染された地下水は第2帯水層に限定されていることを示した(図1)。対象地域のDO飽和度は18~121%の範囲を示し、平均では39%で極めて嫌気的な状態であった。同時に測定した酸化還元電位は-150~214mVの範囲で、平均で-6.3mVを示した。このように還元状態の帯水層が広範囲に分布していることは、この地域の地質が極めて還元性の高い状態であることを示した。電気伝導度(EC)は188~2140μS/cmの範囲で比較的高い値を示した。ECの大きな値の井戸はほとんどが開放井戸で、この地域の浅層地下水の汚染を示唆した。汚染の原因はほとんどの家で牛を飼育していることから、その糞尿が雨水とともに浸透しているためである。TNは20mg/L、NH4+は5mg/Lを超える井戸もあり、汚染は深刻である。第3帯水層の井戸ではTN、NH4+は検出されず、ECも700μS/cm程度と汚染の影響はないと考えられる。

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