抄録
愛知県瀬戸市白坂地区において土壌炭素蓄積状況を把握するため林況別、植生回復状況別に土壌炭素量を測定し、貯留状況を解析した。
ICPPによれば土壌及び地下部の炭素蓄積量は樹木の地上部や大気全体に存在する炭素総量のそれぞれ2倍から3倍にも達し、海洋に次ぐ炭素貯留量を持っていると言われているが、実際の森林土壌中の炭素蓄積量や蓄積のメカニズムに関しては、必ずしも正確かつ十分な資料が得られていない。
土壌炭素蓄積過程の量的把握は、森林の炭素貯留機能を考える上で緊急の課題であるといえよう。
土壌への有機物の蓄積やその影響要因を解析する場合、森林の履歴がある程度判明している林分での研究が重要と考え、本研究では、1)様々な履歴や林況を含む愛知演習林内の11地点、2)航空写真で1977と1998年を比較し、林地の回復状況が異なる3地点、の二つの視点から調査地を選定した。
以上の土壌中の炭素蓄積量の深さ別プロフィールを調べ、測定結果と1)推定経過年数、2)撮影記録年から、年間の森林土壌への炭素蓄積経過を林相別に推定した。
その結果、多くの林分では炭素蓄積量は表層から下層に行くにしたがって減少する傾向が見られた。また、樹種構成が異なっていても古い林分、新しい林分、貧弱な林分の順に炭素蓄積量が減少していく傾向が見られた。禿寫地との差から年間炭素蓄積量を計算すると新しい林分では0.41t/ha/yr~0.54t/ha/yr、古い林分では0.98t/ha/yrであった。航空写真で判定した森林、回復、裸地地域においても炭素蓄積量は森林、回復、裸地の順に多かった。回復地域の回復に要した時間をおよそ20年と考えて計算するとこの間の1年あたりの炭素の蓄積は0.16t/ha/yrであった。
土壌への炭素蓄積量は気候、林相など多くの要因で変化する。わが国では酒井らによって、砂壌土の苗畑における6年生広葉樹林での土壌有機物の年間蓄積量の測定が行われ、0.47t/ha/yとの結果が得られている。また、亜寒帯、温帯、熱帯で測定された既往の研究ではこの数値よりも若干大きな値が知られている。
本研究は履歴が判明している林地での自然植生下で形成された土壌において行われた点に特色がある。