日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0106
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発表要旨
関東平野内陸域で発生する猛暑とフェーンのメカニズム
*髙根 雄也日下 博幸
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抄録

1.はじめに 近年,地球温暖化と都市温暖化との関連から都市域で発生する猛暑への関心が高まっている.これまで,先行研究によって関東平野内陸域で発生する猛暑の発生頻度が過去から現在にかけて増加していることや,その増加の要因は高温気団下の晴天日の増加と都市化であることが示されてきた.また,1994年8月3日,1997年7月5日,2007年8月16日に発生した猛暑には,山越え気流に伴う昇温(フェーン)が関与していることが指摘されてきた.しかしながら,フェーンの発生が,過去に発生したその他の猛暑に共通した特徴かどうかは不明であった.また,夏季に関東平野で発生するフェーンのメカニズムは,これまで詳しく調査されていなかったためよく分かっていなかった.したがって,フェーンによって発生すると指摘されてきた猛暑の形成メカニズムもよく分かっていなかった. 本研究では,まず過去22年間に関東平野内陸域で発生した猛暑の発生タイプを観測データにより把握することによって猛暑の気候学的な特徴を調べた.その上で,観測データと領域気象モデルを用いて,同地域で発生する猛暑の形成メカニズムを,フェーンのメカニズムとともに調べた.2.統計解析 過去22年間の観測データを用いて猛暑発生の必要条件を調べた.その結果,必要条件は当日の高い日最低気温と850 hPa等圧面高度における高い気温であることが分かった.これら2つの必要条件を満たす猛暑発生日を,気圧配置型・関東平野内陸域の日中の地上風の型・前日までの連続晴天日数の値の組み合わせで分類した.その結果,計27種類のタイプの中で最頻出のタイプは「鯨の尾型・南東風型・4日以上の連続晴天」を兼ね備えたタイプであることが分かった.この結果は,フェーンの発生が猛暑発生の必要条件ではないことを意味している.また分類の結果,事例数こそ少ないが「鯨の尾型・北西風型・4日以上の連続晴天」タイプは,関東平野内陸域が最も高温になりやすいタイプであることが分かった.この結果は,フェーンが発生した日に,関東平野内陸域が特に高温となる可能性を示唆している.3.事例解析 2011年6月24日に発生した39.8℃の猛暑(「鯨の尾型・北西風型・0-1日の連続晴天」のタイプ)と2007年8月16日に発生した40.9℃の猛暑(「鯨の尾型・北西風型・4日以上の連続晴天」のタイプ)の形成メカニズムを多角的に調べた.2011年6月24日の猛暑は,関東平野の南部を覆う南西風と北西部を覆う西寄りの風の収束域の北縁で発生していた.この猛暑の形成メカニズムを調べるために,オイラー熱収支解析を実施した.その結果,猛暑形成の主要因は,西寄りの風の侵入であることが分かった.この西寄りの風の侵入経路と風下の気温上昇(フェーン)のメカニズムを,後方流跡線解析・ラグランジュエネルギー収支解析・オイラートレーサ実験により調べた.その結果,西寄りの風の侵入に伴う風下の気温上昇(フェーン)のメカニズムは,典型的なフェーンのメカニズムとして知られている,風上側で降水を伴わないタイプのフェーンと降水を伴うタイプのフェーンが組合わさった,新たなメカニズム(hybrid-foehn)であることが分かった(図1).これまで,両者のフェーンは理想的な環境場においては,発生する環境場が互いに異なるため別々に発生すると考えられてきたが,上記の結果は複雑地形が存在し現実的な環境場においては,両者のフェーンが組合わさり風下の高温をもたらす可能性があることを示唆している. 2007年8月16日に発生した猛暑は,おもに以下に示す2つ要因が組み合わさった結果,発生したことが分かった.1) 2007年8月16日の前7日間は,晴天が連続していた.この前7日間の連続晴天日数は,1998~2008年の7・8月の統計では12番目に大きい値であった.連続晴天によって土壌が乾燥し,それによって地表面から大気へ供給される顕熱フラックスが増加していた.そしてこの顕熱フラックスの増加が猛暑の発生に寄与していたことが分かった.このメカニズムは,中部山岳域の土壌水分量の感度実験によって確認された.2) 数値実験の結果,地表面からの非断熱加熱を伴うフェーンの存在が確かめられた.このフェーンは,気流が中部山岳と関東平野内陸域の混合層内を吹走する際に,サブグリッドスケールの乱流拡散と地表面からの顕熱供給によって加熱され,この加熱された気流が侵入することによって風下側の地上が昇温するメカニズムである.後方流跡線解析とラグランジュエネルギー収支解析の結果,この地表面からの非断熱加熱を伴うフェーンが,先行研究が指摘していた典型的なドライフェーンに比べて猛暑の発生に大きく寄与していたことが分かった.

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