日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0205
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発表要旨
郊外住宅地における女性就業と子育て
-広島市高陽ニュータウンの事例-
*由井 義通
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抄録

1.研究の目的高度経済成長期以降,大都市圏郊外地域で活発に開発された住宅団地では,居住者の高齢化とそれに付随したさまざまな問題が表出している。入居当初は若年層に偏っていた世帯主夫婦は高齢化し,さらに彼らの子どもたちは独立したことにより高齢者夫婦のみの世帯か高齢単独世帯が中心の住宅地へと変容している(福原;1998,由井;1998,中澤ほか;2008)。そのため,郊外住宅団地における高齢化や再活性化は喫緊の課題となっているが、高齢化対策のみでは住宅団地の活性化をはかることは困難であり、高齢化対策と並行して 、いかに若年世帯を呼び込むことができるかが検討されている。本研究の目的は、郊外住宅団地における活性化策を立案するための基礎的資料を得て、持続可能な住宅地へと転換をはかるために、子育てによるまちづくりの可能性を探ることである。上記の目的のために、本研究では国勢調査等の統計資料によって郊外住宅団地における女性の就業状況を把握するとともに、子育てをしながら働く女性たちを対象にしたアンケート調査によって、彼女たちの就業と子育ての状況に関する実態と課題の解明を試みた。アンケート調査は、2011年4~6月に、住宅団地内の公立保育園、公立幼稚園、公立小学校低学年児童をかかえる母親に対して実施した。アンケート調査票の配布は、保育所・幼稚園・小学校で1100部配布し、146部の有効回答を得た。2.郊外地域における女性就業と子育ての状況研究対象である広島市安佐北区の高陽ニュータウンは、1980年代前半に供給された広島県内最大の郊外住宅団地であり、計画面積268.2ha,計画人口約25000人であった。人口規模は計画人口に届かず減少し始め、約20000人の居住人口となっている。かつて高陽ニュータウンでは専業主婦が多く、子育て中の女性就業者は少なかったが、近年は専業主婦が減少し、就業女性が増加している。そのため、高陽ニュータウン内の市立幼稚園は廃園の方針が出され、3園の公立保育所への依存が強くなっている。子育て中の就業女性を対象としたアンケート調査結果によると、半数以上がパートタイムの非正規就業者であった。彼女たちは、勤務時間の融通によって子育てと就業の両立をはかっており、通勤の利便性や家事や育児の時間が十分確保できるパート就業を選択している。高陽ニュータウンに居住することを選択した理由として、ニュータウン内に住む自身の親への近接性をあげた回答が約3分の2であったことから、就業と育児・家事の両立のために、近居を志向していることが明らかになった。この傾向は、香川(2010)による千里ニュータウンでの研究結果と共通する。3.子育てによるまちづくりへの課題少子高齢化社会が深刻になりつつ郊外住宅団地において求められるのは、あらゆる年齢層に向けた総合的な活性化策である。特に若年世帯を呼び込むことによって、居住世帯の多様化をはかり、長期的に持続性のある社会づくりが課題となる。

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