抄録
これから大学院に進学しようという学部生のみなさんや、現在研鑽を積んでおられる大学院生のみなさんは、積極的にこの業界をめざして欲しい。博士号を取得してから、大学のポジションを期待して非常勤講師で食いつなぐのは最後の手段に等しい。大学であれ、研究機関であれ、採用されるには研究者としての体力(コンスタントな研究業績)を維持していかなくてはならない。平日における職務専念義務が発生し、非常勤講師は困難になるが、まずは任期付きでもいいからこの業界に常勤として入り、自身の研究環境を確保すべきである。また、実際にはすべての公募に人材が殺到しているわけではない。公募しても応募者が少なく、外国人頼みとなるケースも少なくない。たとえば、研究というよりも、特定の事業を推進するためのポスドクなどである。職務の範囲を超えてしまう可能性もあるが、研究者としての採用である以上、不利な条件ではあるが研究成果をあげ、自身の業績を上積みしていくことも、暗黙のうちに求められている。研究時間は自分で捻出すればよい。職場の先輩と相談し、本務に支障のない範囲で研究の場(設備の利用)を確保していくことも、本人の力量次第といえるだろう。さらに、地理学者である以上、地の利を意識し、生かすことを心がけて欲しい。筑波研究学園都市のように、横の連携で大きな成果が生まれやすいところもある。演者の所属する機関などは、「環境」というキーワードでくくれるありとあらゆる分野を扱えるポテンシャルを有しており、その多様性は、政策、経済から医学までと、総合大学に匹敵するレベルである。地理学者が活躍できる場は少なくない。任期付きポスドクの場合、期限は3~5年のケースが多く、プロジェクト経費による雇用の場合は、その終了まであと1年のみという段階での採用もあり得る。それらを渡り歩き、研鑽をつみながら、任期を定めないポスト(大学教員を含む)にたどりつくべく、努力の日々を過ごすことになる。 ここまでは人材活用の話に終始してしまったが、これらの機関においては、地理学はどのような扱われ方をしているのであろうか。また地理学者に期待されていることは何であろうか。現在では、演者のように国内の大学院の連携講座において院生の教育・研究指導にも携わる研究者も少なくないため、大学とくらべて大きな違いは少ないのかもしれない。研究費の獲得にしても、90年代までは各省庁が所管する大型競争的研究資金への応募資格が今日より狭く、省庁所管の研究機関以外からアプローチしにくい状況もあったが、今日そのハードルはほとんどないといえる。科研費のように、研究者の自由な発想で申請する研究資金にくらべ、省庁系の大型競争的研究資金は金額が大きいものの、昨今では使途が厳しくなり、人件費など以外には使いづらいものとなっているが、独法を含む国の研究機関における主たる研究資金となっているのは、運営交付金とこれらである。募集課題の動向も、その時々の政策に必要な分野と連動しており、応募にあたり担当省庁と相談して申請内容を決めるケースもある。基本的には科研費でも同様であるが、日本学術会議や総合科学技術会議が分析する研究開発の動向や重点分野・項目などをきちんと把握した上で、研究計画を立てていく姿勢が重要である。演者自身も直接関わっているが、科研費の業務を司る日本学術振興会における地理学の扱いについても、同様のスタンスが求められる。また2001年以降、独法研究機関においては5年を1期とした中期計画をボトムアップ的に定め、それにもとづいた外部評価にさらされるようになった。この中期計画策定にあたっても、我々は地理学からいかなる貢献をなすべきなのかについて、常に考えていかねばならない。大学と違って大きなお金と仕事が常に降ってくるという態度では、10年先に研究機関が存在することすら危うい。 昨今の情勢に鑑み、地理学者の活躍がもっとも期待されているのは、環境、防災、社会の安全・安心にかかわる分野である。復興まちづくりはその最たるものであろう。では、ここにおける地理学者の強みは何であろうか。地理学者のテリトリーは広く、自然から人文まで時空間に展開する様々な事象、素材を扱っている。しかし、特定の事象・素材に関する専門分野においても、昨今では地理学的なアプローチが一般的になりつつあり、そんな中で我々が生き残るには何が必要なのだろう。当日はこの問題について、演者の経験から考察してみたい。