日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0506
会議情報

発表要旨
宮古市の仮設住宅住民の心理的健康と個別的経験
地域コミュニティを中心とした心理的サポートの構築に向けて
*松本 宏明石井 佳世白井 祐浩岩船 昌起
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【背景と目的】東日本大震災後、被災3県を中心に供給された約5万3千戸の応急仮設住宅の入居者の多くは、災害復興公営住宅等に移り住むことを希望している。被災地再建研究グループ復興公営住宅班は、復興公営住宅の建築に係る基礎的データ取得のため、岩手県宮古市において2012年4月から①仮設住宅内の温湿度環境や構造物等の計測②不便・改善点の聞き取り③仮設住宅住民の体力や体格の計測や空間行動の聞き取り等の調査を重ねてきた。仮設住宅住民は、「家屋が全壊・半壊した被災者」として一括りで認識されがちである。しかし実際には、震災に起因する喪失体験、被災者としての生活経験、被災家屋から仮設住宅への移住に伴う生活環境の変化、地域コミュニティの変容、個人的背景など多様な要因がそれぞれの心理的健康に影響を及ぼし得る。したがって復興過程におけるハード面での整備に加え、個別的な心理的問題やストレスケアを包含した支援について策定する必要がある。そこで本研究では、個別的に経験が異なる仮設住宅住民の心理的健康状態を把握するため、質問紙調査とインタビュー調査を実施する。質問紙調査では震災前後における人間関係およびその変化と、現在の心的ストレスとの関連について検討する。そしてインタビュー調査では、心理的健康に及ぼす個別的経験の影響について明らかにする。この2つの調査によって、仮設住宅入居者への地域コミュニティを中心とするサポートと心理的健康との関連について包括的かつ個別的に検討したい。【研究方法】平成24年10月に質問紙調査を実施。宮古市内の4地区の仮設住宅の集会所で原則自記式、必要に応じて聞き取りで行い、63名から回答を得た。質問紙調査では、社会的支援尺度質問票の一部を改変し、震災前と仮設住宅それぞれにおける、地域での社会的支援の実態を尋ねた。さらに震災前および仮設住宅における人間関係についての主観的な満足度と、仮設住宅の住み心地をそれぞれ4 件法で尋ねた。ストレス測定については、自己評定式のストレス反応尺度〔PHRF-SCL (SF)(今津ら, 2006)〕を用い3件法で尋ねた。インタビュー調査は、平成24年12月に実施した。質問紙調査で実施したPHRF-SCL のストレス得点を参考に抽出された27人に対して、それぞれ約1時間程度行われた。半構造化面接の形式で、ストレスについてのそれぞれの認識と、現在の人的サポートやリソース、そして震災前後での生活の変化などを尋ねた。会話は録音され、プロトコルに起こされた。【結果】質問紙調査の社会的支援尺度と人間関係満足度との関係については、震災前と、仮設住宅での生活ともに有意な関連が見出された(r=.60, p<.01; r=.66, p<.01)。一方、ストレス反応尺度と社会的支援尺度との関連については、震災前と、仮設住宅での生活ともに有意な関連はなかった(r=-.10, ns; r=-.23, ns)。また、ストレス反応尺度と人間関係の満足度との関連については、震災前においては有意な相関が認められたが、それは非常に弱い値であった(r=-.30, p<.05)。一方仮設住宅での生活においては有意な関連はなかった(r=-.27, ns)。また、対象者のストレス反応得点の平均値(17.6)は、基準となる得点(13.5)と比較して高かった。【考察】質問紙調査の結果からは、仮設住宅の生活者は通常と比べ多くのストレスを抱えていることが示された。一方、ストレスの高さと、周囲の人間関係のサポートや主観的な満足度、さらには環境の変化との関連は認められず、ストレスの維持や軽減に、地域との関係が直接影響しているとはいえなかった。そこでインタビュー調査では、ストレス反応尺度の高群と低群それぞれに対し、ストレスの高さや軽減に寄与している個別的要因についてより具体的に明らかにすることとした。シンポジウム当日は、インタビュー調査の詳細と、質問紙調査の結果とを合わせた形で、改めて報告する予定である。 なお、本研究は、公益財団法人 トヨタ財団 「2012年度研究助成プログラム東日本大震災対応『特定課題』政策提言助成」の対象プロジェクト(D12-EA-1017,)の一部である。
著者関連情報
© 2013 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top