日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0507
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発表要旨
岩手県宮古市における仮設住宅入居住民の生活行動空間
*関根 良平岩船 昌起増沢 有葉
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抄録
 東日本大震災より2年を経た現在においても、被災者の生活再建の礎となるべき定住の地が定まらない被災者は数多く、多くの被災住民は「応急」仮設住宅をひとまずの仮の生活拠点とすることを余儀なくされている。加えて、今や被災地に限ったことではないとはいえ、この大震災は住民の高齢化と水産業など主要産業の不振が顕著であった地域に甚大な被害をもたらした。とはいえ管見の限りにおいては、原発事故の影響が甚大であり、住民帰還ひいては除染の見通しすら多難な状況にある福島県双葉地方や飯舘村を除けば、2012年の後半に至ると瓦礫の撤去および処理について一定程度の見通しがつき、また各地で仮設の商店街が展開するようになり、とくに後者についてはひとまずの集客・交流人口拡大に向けた取り組みとして定着した感がある。また、被災地各地の自治体ごとに、都市計画に基づいた浸水地域の嵩上げや丘陵地の造成、道路の配置、堤防の建設といった、将来的な生活空間の基盤となるインフラの整備が、様々な課題を抱えながらも進展しつつあることがマスコミ等を通じて伝えられている。ただし、被災住民の要望として強いものがある災害公営住宅の整備状況となると、手順として用地取得や基盤インフラ整備の次の段階となることもあり、十分に進捗しているとはいえない状況である。岩手県についてみると、平成24年度はわずかに大船渡市の盛地区の1カ所において入居の募集が始まったにすぎず、今回対象とする宮古市では、20カ所において整備計画があるものの、そのうちの14カ所は入居開始が早くても平成27年度以降という状況である。加えて、所得形成手段や住居について自力での再建をなしえる住民は、発災から2年という時間の経過の中で生計を再構築し、仮設住宅から新たな生活拠点へ移動しつつあるのも事実である。被災地の各地で、震災以前から分譲整備され、かつ目立った被害のない高台や内陸の住宅団地で新築家屋の建設ラッシュがみられ、仙台市などでは宅地だけでなく賃貸物件の取引が活況を呈している。このような状況に鑑みれば、被災地域の「復興」に向けて新たな居住地域空間の構築をはかるためには、地域にいわば「残る」住民の住居機能・都市機能に関するニーズを十分に把握し、画一的ではない被災地の実態に考慮した機能の空間配置をはかることが必要である。前述したように、2013年現在において仮設住宅に「残る」住民は、その意味では自力での生活再建・維持が相対的に困難な状況に置かれている場合が多く、かつ高齢でもあり、身体的にも社会的にも相対的・比較的に手厚い公共福祉サービス・医療サービスの提供が必要ともされている。財政的に余裕のないなかでその的確な供給をはかるための機能の空間配置を検討するに際しては、応急仮設住宅入居住民の日常生活における生活行動空間を実証的に把握し、そのニーズの地域性に対応した「住まい」と「まちづくり」に反映させることが必要である。しかし、そうした観点からの調査は、個人情報保護や住民負担の関係からほとんど行われていない。本報告はその克服を目指し、岩手県宮古市の津波被災地域を対象として、住民・世帯レベルにおける応急仮設住宅住民の生活行動空間の実証的な把握から、ありうべき住居と都市機能配置の一端を解明することを目的とする。なお、本研究は、公益財団法人トヨタ財団「2012年度研究助成プログラム東日本大震災対応『特定課題』政策提言助成」の対象プロジェクトの一部である。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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