日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 403
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発表要旨
高齢社会における日常生活アクセシビリティの変化
富山市と青森市を事例として
*秋元 菜摘
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抄録
Ⅰ 高齢社会と生活環境の変化
高齢化の進展とともに単身高齢世帯や高齢夫婦世帯が増加するなか,高齢者の日常生活がどのように維持されるのかについては社会的関心が高い.たとえば,2011年には経済産業省が「買い物弱者応援マニュアル」を策定し,日用生活品を入手しにくい住民への支援策に着手している.特に地方都市では,日常生活は自動車を必要とする生活関連施設の配置や公共交通サービス水準が実現している.そのような環境では,自家用車を運転できなくなる割合が高い高齢者が日常生活を営むことは困難であると考えられる.しかしながら,実際にどのように生活環境が変化し,どの程度の影響があるのかについて分析する必要がある.本研究では,富山市と青森市を事例に,生活関連施設や公共交通サービス水準のデータを利用し,高齢者の日常生活アクセシビリティの変化を明らかにすることを目的とする.両市はコンパクトシティ政策で有名であり,都心部の再開発などにより都心機能や生活関連施設の維持に努めている.
Ⅱ 日常生活アクセシビリティ
国勢調査1/2地域メッシュを用いて人口分布を可視化すると,2000~2010年の間に,65歳以上の高齢者人口割合の高い地区は郊外でも多く見られるようになっている.市の人口総数における高齢者割合の増加だけでなく,高齢化が市域全体で生じていることから,高齢化に関わる問題を考える際には面的な広がりを考慮する必要がある.なお,両市とも5%以上の人口減少はない.生活関連施設は2000年以降,特に商業関連施設で減少が大きく,その減少の仕方は一部地域の施設が減少するのではなく,市域全体で施設密度が低下していた.一方,鉄道交通のサービス水準には大きな変化は見られなかったが,運行頻度は若干減少していた.アクセシビリティの面から変化を明らかにするため,国勢調査1/2地域メッシュの中心点を基準として,最寄駅まで歩いて都心(市の中心駅)へ鉄道でアクセスした場合の所要時間を求めた.所要時間とアクセス可能人口割合の関係をみると,高齢者が活動しやすい午後早めの時刻(14時台)では,2005年では1995年よりアクセシビリティが低下している.
Ⅲ 結論
市域全体で高齢化が進展しているなか,生活関連施設の減少や公共交通サービス水準の低下によって,特に郊外における高齢者の日常生活環境の維持は悪化する傾向にあるといえる.本研究は,それぞれの市全域を対象として,客観的に住民のアクセシビリティの状態を明らかにすることが主な目的であったが,今後はより詳細にアクセシビリティを計測するほか,高齢者の個人属性や取り巻く環境,住民の評価に基づく主観的な生活環境についても研究されることが求められる.
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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