日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 402
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発表要旨
住民組織が運営する乗合バス事業の合意形成とサービスの変化
函館市陣川地区あさひ町会バスを事例として
*井上 学今井 理雄山田 淳一
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抄録
Ⅰ 問題の所在と研究の目的 民間バス事業者が撤退した地域や交通空白地域などに当該自治体が中心となってバスを運行する、いわゆる「コミュニティバス」は日本の多くの自治体で運行されている。 コミュニティバスは運賃収入のみでは運行の継続性が困難なため、補助金の支出を前提として自治体が運営している。しかし、行政域が広い自治体や交通空白地位が多く存在する自治体では、ある特定の地域でコミュニティバスを運行すると、他の地域からもバスの運行が求められ、自治体としては行政サービスの公平性の観点から要望を断りにくいケースが想定される。そこで、沿線住民が中心となって構成された住民組織や、企業団体がコミュニティバスの運営主体となってバスを運行する事例がいくつか存在する。ただし、住民組織が運行するバスの場合、ボランティアベースでの運営の関わりとなるため、これが住民組織によるバスが増加しない要因のひとつといえる。 そこで、本研究は住民組織が運営するバスがどのような経緯で運行に至ったのか明らかにする。また、運行後の経路や本数などのサービスの変化を明らかにすることで、行政が運営する既存のコミュニティバスや民間事業者が運行するバス路線との差異を検討する。対象としたのは函館市陣川地区で運行されているあさひ町会バス(以下、Jバス)である。Ⅱ 研究対象地域の特徴と研究方法 研究対象地域である、函館市陣川町は函館市の北東部に位置し、人口は1,452世帯、3,454人(2012年12月現在)である。函館市内の他地域と比較すると高齢者の割合が低く、30~40代の割合が高い地域である。1980年代後半より宅地の造成が始まり、戸建て住宅がほとんどである。 路線バスは、町内と函館市の中心部である五稜郭や函館駅を結ぶ便がおおむね1~2時間に1本の頻度で運行され市中心部への通勤、高校への通学や買い物等に利用されている。また、この地域の近隣には小中学校がないため、地域で独自に運行される通学バスもある。 しかし、近年増加しているロードサイド型・郊外型の商業施設にアクセスすることのできるバス路線がないため、陣川町では新たなバス路線が望まれていた。本研究は、そのような需要にバス事業者や行政がどのように対応し、結果として住民組織が補助金に頼らないバス路線を運営することとなったのか、その経緯を函館バス、函館市、陣川町あさひ町会の担当による聞き取り調査を中心に明らかにする。そして、バスの利用状況をふまえて、バス路線のサービスがどのように変化しきたのか明らかにする。くわえて、バス路線のサービスを変更する際に、地域内でどのように検討されてきたのかについても言及する。Ⅲ 調査結果と考察 Jバスの運行計画や定期券・回数券の売上金の管理(現金での乗車はできない)は陣川町あさひ町会の会員から構成される協議会が担当している。バスの運行に関しては、函館バスが受託している。行政はまちづくりの一環として、町会と函館バスの調整の役割や定期券・回数券の印刷などの業務に留まっている。Jバス運行後の利用者数は採算ライン前後で推移している。そこで、町会では利用結果をふまえて3ヶ月ごとに路線の変更やバスの時刻変更、減便、停留所の廃止・新設を行ってきた。特に廃止される区間や停留所に若干の利用者がいた場合、その利用者を説得して路線変更後も継続的な利用を呼びかけている。 路線バスは鉄軌道に比べて利用動向をふまえた柔軟な路線変更やダイヤ設定が行える点にある。住民組織が運営することで、迅速にバスのサービスを変更できる点が大きいといえる。また、住民組織がバスを運営することで、バスの利用者という立場にくわえてバスの経営者という認識が芽生えた。それによって、1人でも利用者がいればサービスを維持するという考えから、利用者が少なければサービスの廃止はやむを得ない、サービスを維持するためにはどのようにしたらよいか考える積極的な利用者に変化したといえる。その背景には、従来から町会で通学バスを運営してきており、バスの運行にある程度のノウハウがあった点が指摘できる。しかし、それ以上に、①入居開始時には公共施設や商業施設が乏しく、何事も自分たちで実行するしかなかった、②地域住民が比較的若い世代であり、町会の業務に積極的に関わることができるという地域の特性が指摘できる。また、それゆえに行政や民間事業者に頼る前に自分たちでできることを考えてみるというコミュニティの特徴が要因といえる。 すなわち、行政や民間事業者に請願するのみではなく、ある程度コミュニティが責任と実務を担うことでサービスの導入や変更は容易になると考えられる。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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