抄録
1.背景東日本大震災の津波被害を受け、防潮堤や護岸の必要性を問う声があがっている。一方で国土強靭化政策のもと、被災地沿岸をはじめとして日本全国で海岸整備が進められている。そもそも1998年の時点で日本の自然海岸は53.09%しか残っていない(環境省、1998)。海と陸の移行帯(エコトーン)である砂浜・海岸は、撹乱と回復を繰り返す動的な環境であり、それゆえ生物多様性の豊かである。海岸整備により、海と陸との連続性を失うことは、取り返しのつかない大きな損失である。2.嘉陽海岸の事例より日本自然保護協会ではジュゴンが棲み、餌となる海草藻場が広がる沖縄県・嘉陽海岸の調査を2002年より行い、またこの地に「嘉陽海岸エコ・コースト事業」と題し護岸建設計画があることを確認し、2011年-2012年には2度に渡り事業者である沖縄県北部土木事務所に提出し、地元NGOとともに、事業者や地元住民との粘り強い交渉を続け、工事計画の内容の変更を求めてきた。また東北では東日本海岸調査と題し、東北の海岸の植物調査を2011年から行っている。これらの経緯をもとに、日本自然保護協会は防潮堤整備計画と海岸防災林復旧事業に関する意見書を2月に提出する。巨大堤防に依存するのではない、防災と自然保護の両立ができる計画を望む、そのために大幅なセットバック方式(図参照)の導入などにより、これまでの海岸のコンクリート化による管理を大幅に見直し、自然と共生できる海岸管理が目指せるのではないかと考えている。本発表では調査結果や経緯、意見書の内容を紹介し、実現可能性や今後のあるべき姿について議論を行いたい。3.参考文献環境省(1998)第5回自然環境保全基礎調査 海辺調査 総合報告書