日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P009
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発表要旨
木曽駒ヶ岳東部における多重山稜の形成と形成後の周氷河環境
*遠藤 涼須貝 俊彦江連 靖英松四 雄騎松崎 浩之新村 匠
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抄録

1)はじめに 日本の高山地域には多重山稜と呼ばれる地形が多くみられ、形成メカニズムとして、周氷河作用説や、広域的な応力による断層説、重力性断層説などが提唱されている。遠藤ほか(2014)は、地形の形状と10Be露出年代から、木曽駒ヶ岳東部の多重山稜が重力性断層、亀裂によって形成されたと推定した。本発表では新たに得られた26Al露出年代を加えて、多重山稜の形成と、形成後の周辺の環境について若干の知見を得たので報告する。
2)調査地域・手法  対象としたのは、木曽駒ヶ岳東部の稜線に位置する三重山稜である。走向は北西―南東方向であり、2本の副稜線は山向きの低崖を示している。稜線部(主稜線1か所、副稜線3か所)、凹地部(2か所)の計6か所から、最も古くかつ基盤岩と考えられる岩石の表面(厚さ<4cm)部分を採取し、試料中の宇宙線生成各種 10Be・26Al を用いて年代測定を行った。東京大学タンデム加速器研究施設において、Kohl and Nishiizumi(1992)の手法によって前処理を行い、加速器での測定後、Stone(2000)の方法により年代値に変換した。また、 26Al 年代を導く際に必要な 27AL の濃度を、日本原子力研究開発機構東濃地科学センターのICP-AESで測定した。
3)結果・考察 三重山稜の断面図を図1、各試料の 10Be・26Al 露出年代値を図2に示す。10Be・26Al 露出年代値は、いずれの試料においても誤差範囲で一致しており、後期更新世~完新世の年代を示している。26Al/10Be 比は6.2~7.8を示した。このことから三重山稜は大規模な埋没を経験していないといえる。稜線部と凹地部で比較すると、稜線部において 10Be 露出年代値が 26Al 露出年代よりもわずかに大きくなっている。これは稜線がそれぞれ大きく削剥されるイベントを経験したのち、弱い侵食を経験したためだと考えられる。凹地部においては露出年代が逆転しているが、これは凹地形成後、侵食を経験せず安定して存在しているためだと考えられる。このことから、凹地は突発的に形成されたと考えられる。
  積雪に関して、国土地理院の1985年撮影の空中写真や小泉(1974)から、三重山稜周辺において積雪が認められる。しかし凹地部は安定であるため、ここから積雪による宇宙線遮蔽効果がほとんどないことを示している。
  以上の考察と遠藤ほか(2014)を踏まえると、次のような形成プロセスが示唆される。まず、最終氷期に氷河が後退してから周氷河平滑斜面が形成された。そして凹地2本の形成、稜線部における大規模な削剥を経たのち、現在まで稜線部で弱い侵食が起こっている。

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