◆研究目的
現在、日本からの中古車輸出業の集積動向については、様々なアプローチから研究がなされている。例えば、外川・浅妻・阿部(2010)1)や、浅妻(2008)2)では、環境経済学の立場から流通面に着目した研究がなされている。一方で、福田(2006)3)や藤崎(2010)4)は、エスニック・ビジネスとしての面に着目して社会学の立場から研究を行っている。また、岡本(2012)5)は港湾物流に着目して港湾経済学の立場から、塩地(2006)6)は自動車産業の海外展開の一動向として産業論の視点から研究を行っている。地理学の観点からは、環境経済学や港湾経済学からのアプローチは経済地理学の範疇といえよう。
港湾にとって、とりわけ地方港にとって、中古車はすでに重要な貨物となっているが、港湾後背地の変容とロジスティクスの中における位置づけを論じたものはあまりない。そこで本研究では、港湾を核とした中古車のロジスティクスから後背地と港湾の結びつきの様相を明らかにしようとするものである。また、日本海側地方港の活性化策に寄与することも念頭に置いている。
◆概況
伏木富山港におけるロシア向け中古車輸出台数は2004年以降急激に増加し、2008年には約18万台を記録した。この頃の伏木富山港周辺における中古車輸出業者の集積は250件程度と考えられ、その多くがパキスタン人業者であった(パキスタン人業者が立地し始めたのは1994年頃)。しかしながら2009年には1万8千台にまで下落し、輸出業者の集積も急激に縮小した。しかしながらその後は比較的早く回復基調に乗り、2012年には約7万2千台にまで増加している(図参照)。この数値は、すでに活況と言われていた2005年の水準に近づくものである。現在の業者の集積は、聞き取りによれば50~60件程度ではないかと思われる。
しかしながら業者の内容は変化しており、パキスタン人業者の集積が言ってい維持されているにもかかわらず、多くが主たる仕向地を中東、アフリカ方面に変更している。その一方でロシア人業者が台頭している。
1)外川健一・浅妻裕・阿部新「潜在的廃棄物としての日本からの中古車輸出の展開」,経済地理学年報56-4,pp.66-83,2010
2)浅妻裕「中古車輸入制度の国際比較」,北海学園大学経済論集第55-3,pp.56-1,pp.27-43,2008
3)福田友子「滞日パキスタン人のエスニック・ビジネス―中古車輸出業者とトランスナショナルな親族配置―」,桜井厚編『コミュニティ形成におけるメディア経験と語り(社会文化科学研究科研究プロジェクト報告集第34集)』千葉大学大学院社会文化科学研究所所収,pp.117-129,2006
4)藤崎香奈「在日外国人と地方都市--中古車ビジネスを通しての定住を探る」,都市問題101-12,pp.92-108,2010
5)岡本勝規「ロシア向け中古車輸出動向と輸出業者の業態変容-伏木富山港周辺を事例に-」,砺波散村地域研究所研究紀要29,pp.39-45,2012
6)塩地洋「舞鶴港からの中古車輸出の拡大に向けて」,日本海対岸貿易研究会・京都大学経済学研究科上海研究センター『日本海対岸貿易の可能性について』所収,pp.17-25,2006
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