抄録
世界の華人人口に関する正確な統計はないが,地理学者も加わった比較的信頼できる推計によれば,1963年には1,268万人であったが,中国の改革開放政策に伴い,日本,北アメリカ,ヨーロッパ,オセアニアなどに移り住む「新華僑」がしだいに増加し,1985年には2,199万人になった。そして,1997年には世界の華人人口は3,284万人に増加した(Ma and Cartier eds. 2003)。2011年,中国側は世界の華人人口を約5,000万人と推定し(丘主編,2012),中国政府の要人も公の場で,この推定値を用いている。
改革開放以前,「老華僑」は伝統的なチャイナタウン(オールドチャイナタウン)を形成する一方で,各地のホスト社会と対応しながら適応でしてきた。しかし,改革開放後,海外に出て行った新華僑の多くは,オールドチャイナタウンに流入するとともに,新しいチャイナタウン(ニューチャイナタウン)を形成した。短期間に急増した新華僑とホスト社会との間で,コンフリクトが生じている地域もあると同時に,新華僑の流入は,地域の活性化をもたらしている事例もみられる。
そこで本発表では,世界および日本の多くの事例を検討しながら,新華僑とホスト社会の関係について考察することにする。