抄録
1.はじめに
ヒートアイランドの観測手法は移動観測と定点観測に大別される.最近では,安価で小型のロガー付き温度センサーの普及,小・中学校にある百葉箱の利用,小型で軽量な放射よけシェルターの開発,持ち運びが可能な自動気象観測システム(AWS)の普及により,定点観測手法も徐々に増えつつある.しかしながら,これまでの移動観測の実施数に比べればまだまだ少ない.とりわけ,中規模都市で観測した例は大都市に比べるとずっと少ない.中規模都市内のオープンスペースでの空間詳細な気温の定点観測は,ヒートアイランド研究だけでなく,地球温暖化も含めた気候変動研究一般にも重要である.よく知られているように,都市域における過去の気温上昇量は,主として大規模場の気候変動とヒートアイランドによってもたらされてきた.日本の気象庁は,都市化の影響が小さいとみなせる観測所で測定された気温データを用いて,地球温暖化による気温上昇量を算出している.ただし,これらの中には,中規模都市も含まれている.
本研究では,中規模都市であるつくば市を対象として,空間詳細な観測ネットワークにより,ヒートアイランドの実態を調査する.さらには,都市内の気温の非一様性の影響を評価する.
2.観測方法
2010年1月と8月に,つくば駅を中心に東西約10km、南北約13kmの地域内の道路32地点と公園7地点において,地上2.5mの気温観測を実施した.また,これとは別に、つくば市中心部の道路と郊外の道路の計3カ所で2010年2月1日から2011年1月31日まで気温観測を実施した.観測では,酒井ほか(2009)によって開発された自然通風式の放射シェルターにサーミスタ温度計を組み込んで行った.測定間隔を1秒に設定し,その2分平均値をデータロガーに記録した.
3.解析方法
つくば市の地上気温分布の実態把握のために,観測より得られた1月と8月の気温データから水平分布図を作成する.次に,ヒートアイランド強度(UHII)を算出する.本研究では観測地点を中心部と郊外の2つに分類し,それぞれについて,解析期間ごとにUHIIを求めた.気温分布図,UHIIとも,10分と1時間平均値を算出した.本稿では10分平均値の結果を紹介する.
4.結果
2010年1月と8月の観測結果から,以下のことがわかった.
(1)つくば市は,つくばセンター(つくば駅)を中心に最高温域となっている.高温域はつくばセンターから南に広がっている.この特徴は季節によらず同じであった.(2) UHIIの日変化を見ると,1月は夜間ほぼ一定であるのに対して,8月は早朝に大きくなることがわかった.(3)UHIIの2010年1月平均値は,最大となる2地点間で1.6℃,中心部と郊外の道路間のUHIIで1.1℃,公園間のUHIIで1.0℃であった.2010年1月のUHIIは最大で2.0℃であった.地点の取り方によっては,負のUHIIとなる組み合わせもあった.(4)UHIIの2010年8月平均値は,最大となる2地点間で0.7℃,道路間UHIIで0.4℃,公園間UHIIで0.5℃であった.2010年8月のUHIIは最大で1.4℃であった.地点の取り方によっては,負のUHIIとなる組み合わせもあった.(5)道路間のUHIIの年平均値は0.8℃で,中心部の道路沿いと公園内の気温差の年平均値は0.3℃であった.UHIIは都市内の気温の非一様性よりも2倍以上大きかった.
以上の結果は,UHIIは観測点の取り方に大きく依存し,その不確実性は1℃程度に達することが確かめられた.
謝辞
本研究は,文部科学省「気候変動適応推進プログラム(RECCA)」 および日本学術振興会の科学研究費補助金(若手研究(B)20700667)の支援により実施された.