日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 715
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発表要旨
日本の高校地理教科書における中国に関する記述の変遷
*南 春英
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抄録
 社会全体のグローバル化に対応するためには、世界の国や地域の理解が不可欠である。国際理解、異文化理解教育の推進は、現代の教育におけるもっとも重大な課題のひとつである。地理教育においても、近年から国際理解、異文化理解などの教育中心になりつつあり、多くの研究で、教材開発の必要性は唱えられている。
 海外でのさまざまな活動を行う日本人の数も、海外からやってくる外国人の数の急速に増えており、国際結婚も増加している。人々の日常の暮らしの中で異文化と接することが必然となっているにもかかわらず、異なる文化的背景を持つ人に対しては、誤解と偏見に満ちた態度に陥りがちである。異質な文化への共感に立脚した相互理解の姿勢に欠けている状況が多く見受けられる。地理教育というのは、主に生徒に科学的な世界観に基づく具体的な世界像を形成させることを目的として、国際理解と異文化理解の教育であると言える。
 同じ東アジアに位置した日本と中国は過去2000年近くにわたって政治的、経済的、文化的関係に結ばれてきた。この関係は、世界の中できわめてユニークな関係である。アヘン戦争以来、100年以上にわたり侵略され、重大な被害を受けた。日中戦争後、27年の対立関係から1972年日中両国国交正常化以来約40年間をかけて、経済、政治、教育、文化などのあらいる面において、深い相互依存関係によって結ばれるようになった。しかし、両国の経済交流と民間交流がかつてないほど緊密に展開されている一方で、両国民が互いに対して多少の不信感を持っているのは不思議な現象である。こうした国際関係もあって、中国に関する記述は極めて難しかったであろう。その際の視点としては、主に国際理解、異文化理解としての地理教育という視点から、時代による日中関係の変化を追い、日本における地理教育の中での中国に関する記述の変遷を明らかにする。具体的には、日本における高校の地理教科書が中国という国をどのように位置付けてきたか、また、時代によって記述において何に中心が置かれてきたかなどを分析していく。
 本論文では、特に、1972年日中国交正常化とこれに伴う日台断交、さらに中国の「改革開放」政策と、「一人っ子」政策などに関する記述に重心を置く。具体的には以下の通りである。具体的には本論文で行われている作業は以下の通りである。
 1.1972年前後で地理教科書の中国に関する記述がどうように変ったかを検討し、記述の中心は何かを探る。なお、日台断交前後で台湾に関する記述はどうように変遷してきたかも分析したい。
 2.人口に関してはどの書かれているか。世界一の人口を持っている中国は、国の基本的国策として1980年代から「一人っ子政策」を実施しているが、この政策を実施する前後で、日本の地理教科書は中国の人口についてどうのように扱っているかを考察したい。
 本研究では、検定教科書制度が実施されてから現在までの高校地理科を観察の対象とする。分析すべき資料としては、第2次世界大戦後終了以降の「学習指導要領」と、株式会社東京書籍から出版された教科書を取り上げる。具体的な研究方法として、学習指導要領の変遷によって、教科書を年代別にいくつかのグループに分ける。各々グループの教科書のうちでで中国に関する記述のページ数について統計をとり、それぞれの時期に出版された教科書のなかで、中国に関する記述が占める割合を計算する。計算した割合で、中国という国の位置付け、また、時代によって記述において何に中心が置かれてきたかなどを分析していく。
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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