抄録
はじめに
ギョウギシバ(Cynodon dactylon)は,寒帯を除く世界の広範な地域に分布するイネ科多年生植物で,日本においても広く生育する種である.ギョウギシバは飼料作物や芝生にも活用されるとともに,砂漠化が進む地域において緑化を目的に導入されることもある.一方で,耕作地においては雑草とみなされ,各地で問題とされて駆除の対象となってきた.
ナミビア共和国の北中部では,農牧民オヴァンボが天水に依存した農業を行っている.この地域において,近年ギョウギシバが耕作地に侵入しているのが報告されている.しかしながら,特に天水に依存した耕作を行う乾燥地において,ギョウギシバがどのように分布し,農業にどういった影響を与えているのかといった実態は明らかになっていない.
そこで本研究では,特にギョウギシバの耕作地内における分布を明らかにすることを通して,地域の主食作物であるトウジンビエ栽培との関係を検討する.
方法
調査地はナミビア共和国北中部,オシコト州のO村である.O村はエトーシャ・パンの北縁に位置し,傾斜が少ない平坦な地形を呈する.年間の降水量は400mm程度で年較差が大きい.村内には70世帯が散村形態で暮らしている.彼らは家畜を飼養するとともに,トウジンビエやモロコシ,豆類などを混作している.
現地調査は2013年4~5月,及び9月~11月に実施した.O村の全世帯を対象に聞き取り調査を実施し,農耕の現状やギョウギシバの影響を把握した.また,耕作地におけるギョウギシバの分布をGPSを用いて測定した.さらに衛星画像(WorldView2: 2011年8月16日および2011年9月15日撮影)の解析を行って各世帯の敷地面積等を算出し,それらをもとに分布の特徴を把握した.
結果と考察
ギョウギシバはO村の70世帯中,44世帯の耕作地に分布していた.耕作地内にギョウギシバが存在すると,その場所ではトウジンビエや他の野菜類などは生育が悪くなると人々は話していた.そのため,人々はギョウギシバが生育する場所では耕起を行っていなかった.また,ギョウギシバが存在している場所をトラクターで耕起すると,地下茎が散乱し,それにともなってギョウギシバの分布が拡大しているといった問題も発生していた.さらに,年々耕作地においてギョウギシバの分布が拡大し,土地の半分以上がギョウギシバによって占められている事例もみられた.
ギョウギシバは耕作地の地理的な位置関係によって分布に偏りがみられ,特に村の西側と東側に分布していた.村の中央部に位置する世帯においては,分布が少なく,ギョウギシバの分布は微地形に影響されていると考えられる.耕作地内のミクロな分布も世帯によって異なっており,特にトラクターで耕起する世帯においては,地下茎の拡散によると思われるモザイク状の分布が確認された.
これに対し人々は様々な対策を講じていたが,ギョウギシバは一旦生育すると完全に駆除することが困難であり,有効な対応策を見いだせていなかった.今後は分布の原因等についてさらに調査を行い,具体的な抑制や駆除の方策を考えていく必要がある.