抄録
南アルプスの周縁山地南東部,山伏峠付近から口坂本・富士見峠周辺に至る海抜2000m前後の稜線には等高線方向に連続する逆向き小崖や線状凹地などの重力性山体変形地形が数列発達している.それらの発達過程を明らかにするために大日峠南西で線状凹地や地すべり移動域内で1~1.5m程度の掘削調査を3箇所で行った.調査では凹地を埋める堆積物の堆積構造や堆積異常を観察した.さらに,凹地を埋積する堆積物に含まれる有機物・木炭などの年代試料を採取するとともに,堆積物中に包含されるテフラを抽出し,その屈折率や主成分組成からその起源を同定した.高起伏山地山稜部の逆向き小急崖・線状凹地は,重力性山体変形の進行を示しているが,AT降下以前から発生していることからその発達時間スケールは数万年に及ぶ.また,大日峠周辺では,AT降下以降アカホヤ火山灰降下前に新たに変形が発生した.また,15~16世紀に凹地内堆積物が陥没するような動きが認められた.その原因としては明応あるいは天正地震による地震性変動が考えられる.