抄録
1. はじめに 国土地理院の基盤地図情報など,詳細な地形標高モデル(DEM)が整備・公開されつつあり,地形研究での利用が進んでいる。DEMからステレオ画像など,空中写真とは異なる地形表現や活断層地形の判読素材が提供できるようになっている(後藤・杉戸,2012)。 一方で,対象としている地形と比べてDEMの解像度が荒いため分析できなかったり,人工改変によって対象としている地形が消失しているために,地形調査をあきらめることや,DEMの作成を専門の業者に依頼することがある(後藤,2013)。解像度の高い地形モデルを手軽に作成できることや,通常の活断層地形の判読に用いているような古い撮影年代の空中写真から地形モデルが作成できることは,活断層研究や地形研究の発展に重要と考えられる。 そこで,本研究では,撮影年代の古い空中写真および,ポールの先端に取り付けたカメラ(Hi-View:中田ほか,2009)で撮影した写真と,SfM(Structure from Motion)ソフトウェアを用いて数値表層モデル(DSM:Digital Surface Model)の作成を試みた。地形モデル作成のためにマルチローターヘリによる上空からの撮影が試みられている(中田ほか,2013;内山ほか,2014)。本研究ではそれらと同じSfMソフトウェア(Agisoft社PhotoScan)を用いた。その結果,写真測量に不慣れな研究者でも,地形研究に利用可能な詳細なモデルを容易に作成できることがわかった。その方法や手順,結果や問題点を報告する。2.1970年代撮影の空中写真を用いた検討 四国東部の中央構造線活断層帯父尾断層(上喜来地区)を対象に,1970年代に撮影された空中写真を用いて地形モデルを生成した。この付近には段丘面を変位させる明瞭な断層地形が発達している(岡田,1973など)が,徳島自動車道が建設され,断層地形は大きく改変されている(左図)。 国土地理院が1974年に撮影した空中写真のネガフィルムを20μm(1,270dip)の解像度でスキャンした画像2枚をPhotoscanに読み込み,簡易な方法でモデルを生成した後,地理院地図のオルソ写真から位置を評定して取得した11点の地理情報(緯度,経度,標高)をGCPに設定した。一方の写真にGCPを配置すると,ペアになる画像には自動的にGCPが配置されるが,精度をあげるために,一部は手動で微修正を行った。その後,設定したGCPをステレオペア作成の基準として,高密度なモデルを生成させた。その結果,基盤地図情報の5mメッシュ間隔のDEMとほぼ同等の測量が可能なモデルを作成することができた(右図)。3.ポールカメラ写真を用いた検討 数mのポールの先端にカメラを取り付けて地形を撮影する方法は,超低空とはいえ,地上撮影よりも俯瞰した写真の撮影が可能である(Hi-View:中田ほか,2009)。本研究では,SfMソフトウェアで地形モデルを作成するために,ポールの先端にGPSユニットを取り付けたカメラを設置し,地上写真を撮影した。カメラにはAPS-Cサイズのセンサがついた18.5mmの単焦点コンパクトカメラNikon Coolpix Aと同社のGPSユニット(GP-1A)を使用した。 和泉山脈南麓の中央構造線活断層帯根来断層(岩出市原地区)の横ずれ地形が見られる谷を対象に谷底を取り囲むように歩いて,10秒間隔に約80枚の写真を撮影した。これらの写真をPhotoscanに取り込み,写真のExifに記録されたGPSデータと地理院地図にあるオルソ写真から位置を評定して取得した4点の地理情報を使用して,地形モデルを作成した。その結果,東西約80m,南北約60mの範囲の地形モデルが生成され,約5cm間隔のDSMとオルソ地図が出力できた。なお,写真のExifに記録されたGPSデータを削除すると,同様の手順では良好な結果が得られなかった。※科研究費(25350428)の一部を使用。低空空撮技術活用研究会の方々から有益な助言を受けた。【文献】内山ほか2014防災科研研究報告;岡田1973地理学評論;後藤・杉戸2013E-journalGEO;後藤2013春予稿集;中田ほか2008, 2009活断層研究