日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P008
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発表要旨
天井川の発達過程と形成要因
*石川 怜志須貝 俊彦
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抄録
1. 背景・目的
天井川とは, 河床面が周辺平野面より高くなった河川である. 堤防により河道が固定されると洪水流の氾濫が抑制され, 堤外地での堆積が進行して河床が上昇し, 天井川が形成されると考えられてきた(町田ら, 1981).
築堤という人間が関与することで形成された天井川の形成要因と発達過程を明らかにすることは, 科学的, 社会的要求を満たす重要な研究課題である. そこで本研究では河川地形としての天井川の形態や天井川周囲の平野面や上流域の地形学的特徴を検討し, 天井川の形成要因と発達過程を明らかにすることを目的とする.
2. 対象地・方法
明瞭な天井川が存在する地域である山城盆地・六甲山麓低地・甲府盆地・近江盆地を対象地として選定した. この4地域において, 国土地理院のDEMデータ等を用いて天井川を認定した. ArcGISを用いて天井川の河床縦断形を作成し, 近似関数をあてはめた(Ohmori, 1997). 既存の地形分類図を河床縦断図にあてはめ, 天井川がどの地形から始まるかを確認した.
近江盆地内において改修の影響が少ないと考えられる天井川を4河川, 天井川化が明瞭でない河川を1河川選び, 天井川発達を議論するためのモデル河川とした. 河床縦断図から河床勾配を約500 m毎に算出した. 更にこれらの河川において河床礫径の計測を行い, 混合比(d84/d16)と限界掃流力を算出した. 水位データから, 掃流力の算出を行って掃流力の比較および掃流砂量の算出を行った. 河道に沿って周囲の地形面の縦断図を作成し, 標高と河床高の差をとって相対河床高を算出した.
3. 結果・考察 多くの天井川は扇状地を有していた. 扇状地を持たない河川は, 上流域から蛇行原に移り変わる位置で天井川化が始まっており, 遷緩点が堆積に関与していると考えられた. 扇状地を有する河川では, 天井川区間の上流端位置は扇頂から扇端まで様々であった.
天井川の河床縦断形のほとんどが累乗・線形関数で近似された. これは, 天井川の屈曲度が小さいことを示し, Ohmori(1997)が扇状地内の河川で指摘したように, 河川が平衡を保つために礫の堆積位置を前進させることで河床が上昇した可能性を示唆する.
礫径と河床勾配の縦断変化について述べる. 河床のある点で礫の細粒化は弱まり, 河床勾配も一定に近い値が続いた. この位置は天井川区間の上流端とは一致せず, より上流に位置し, 天井川区間下流端付近まで続いており, 天井川区間より上流から河床上昇が生じていると考えられた. 掃流力は限界掃流力より大きいためアーマーコート化は生じておらず, 現在の河床の特徴が河床上昇に伴って生じたと考えられる. 掃流力は河床勾配の変化に伴って変動しており, ほぼ全ての地点で掃流による土砂運搬が卓越していたと考えられる. 礫径の細粒化速度は選択運搬を示し, 天井川の混合度は5程度と低い. 天井川の上流では最大礫径の限界掃流力と掃流力が釣り合っている一方, 天井川を構成する礫径は128 mm(-7 φ)以下であり, 2年に一度程度の頻度で発生する洪水時における掃流力は, 限界掃流力を大きく上回っていた. -7 φの礫の流下限界は河床勾配が約1‰に急変し, 掃流力が急減する部分である(Ohmori, 1997). 周囲の地形面には天井川区間の上流端より下流に遷緩線が存在した. よって-7 φ以下の礫が選択的に緩勾配地点まで流下し, 掃流力減少に伴う堆積が生じ, 河川が平衡を保つ形で河床が上昇したと考えられる. つまり築堤と砂礫の供給によって掃流力等, 河川の平衡条件が変動し, 遷緩点まで輸送された砂礫が掃流力の減少によって堆積し, 河床上昇が生じた. このプロセスの繰り返しが天井川化であると考えられた.
一方, 掃流砂量は上流から緩やかに減少する傾向を見せるものの, 激しく増減していた. 天井川区間において掃流砂量の各地点での比は10以内に収まり, ほぼ一定の値を示していた. しかし, 掃流砂量の精度を見積もることは難しく, 掃流砂量から河川が平衡状態にあるかを判断するのは検討の必要があると考えられる.
本研究では相対河床高は天井川区間の大部分で一定の値を保ち, 天井川区間が下流域の一部であったことから河床上昇による勾配の変動は無かった可能性が高い. これは砂礫供給量の増大による河床上昇は勾配の増加を伴い, 河床上昇は堆積面の上流端から生じているという従来の見解と異なる. 一方, 1 m/年のような非常に大きな堆積速度が推定されている天井川も存在する. つまり天井川の形成には砂礫供給量の顕著な増大を伴う場合とそうでない場合の, 二つの可能性があると考えられる. 
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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