日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 901
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発表要旨
ボーリング試料にみられるフィリピン・ルソン島中央平原パイタン湖周辺域における古植生景観と古気候との関係
*田代 崇渡邊 眞紀子Mario B. Collado森島 済
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抄録

背景と目的  IPWP北東域にあたるフィリピンを含む西部熱帯北太平洋域は,アジアモンスーン地域の中でも西部北太平洋モンスーン地域(WNPM)として固有の分類がされ,この地域の対流活動(=降水量の変動)は,東アジアを含む全球的な気候変動にも強い影響を及ぼすことが知られている.したがって,同領域の長期的な環境変動を明らかにすることは,気候変動を介した全球的環境変動を理解する上でも重要な課題の一つと考えられる.フィリピン・ルソン島において,湖底堆積物の植物珪酸体分析をおこなった吉田ほか(2011)は,イネ科チガヤ属の多年生草本であるコゴン(Cogon;Imperata Cylindrica (L.) Beauv.,)と木本類が交互に出現するパターンが過去2,500年間にわたって現れることを明らかにしており,この原因の一つとして人為的影響を挙げている.しかしながら,気候変動よる乾燥ストレスとそれに伴う植生の衰退がきっかけとなり,コゴンが優占種になるといった自然環境の変化に起因している可能性も考えられる為,本研究では,フィリピン・ルソン島中央平原における植生と気候変化の関連性の解明を目的とし,同領域に位置する湖から得られた湖底堆積物試料の粒度分析および,植物珪酸体分析から推定される気候変動と植生との関係について考察を行った.結果と考察粒度分析結果は,中央粒径がおよそ7~8φという小粒径に最頻値を持ち,淘汰の進んだ分布を示す層と5φ以下の大粒径に最頻値を持ち,淘汰の進んでいない分布を示す層といった2つの特徴を示した.中央粒径(Mdφ)と歪度(Skα)の関係は,中央粒径が大きくなるにつれ,淘汰度が小さくなるといった特徴を示し,この結果は各層が堆積した際の湖水位変化とそれに伴う採取地点の湖岸からの距離の変化を反映すると考えられた.また,湖岸からの距離は,湖水位の変化によって生じる為,降水量の変化を反映している可能性が考えられる事から,粒度組成データに対しクラスター分析(K-mean)をおこない,湖岸から湖底への堆積環境毎に4分類したタイプ(Type1~4)と植物珪酸体組成との対応関係を整理した.その結果,乾燥指標と考えられるコゴンは,湖岸環境で増加,湖底環境で減少を示し,湿潤指標と考えられる木本類は,逆の関係を示した.これらの関係は,湖岸から湖底への堆積環境の変化と植生側からみたときの乾燥湿潤との対応関係がほぼ一致して現れる事を示しており,湖水位の変化による堆積環境と植生変化を代表しているものとして考えられ,この原因が降水量の増減である可能性が考えられる. しかしながら,年代測定値が少ない事から分析試料の持つ時間スケールが一定ではなく,植生の反応時間と粒度組成タイプが一対一の対応を示していない可能性が考えられる.この為,年代測定値に基づいた堆積速度を詳細に検討し,これを基に堆積環境の変化に伴う降水量変化と植生の応答を再検討する必要が課題となる.

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