主催: 公益社団法人 日本地理学会
ヤエガワカンバBetula davurica Pall.は,北東アジアに広く分布するカバノキ科カバノキ属の落葉高木である.極東ロシアから中国東北部の大陸部では,モンゴリナラ(ミズナラと近縁)とともに落葉広葉樹林の代表的な構成種として広く分布する.しかし日本列島では,本州中部や北海道の一部に小林分や単木としてのみ分布する.これらの分布地の成因について,地すべり地形に形成された林分では,斜面崩壊により大規模な林冠ギャップが出現することが重要であると報告されている.しかし,地すべり地形以外でもヤエガワカンバ林の成因として斜面崩壊が関与するかは不明である.そこで本報告では,非地すべり地形におけるヤエガワカンバ林の成因について,外秩父山地南部にみられる小林分を取り上げて検討する.
調査地は,外秩父山地南部の中でも蕨山北側斜面(標高1020 m-1044 m)を選定した.外秩父山地南部は,ヤエガワカンバの分布密度は低いが,蕨山北側斜面では比較的まとまってみられる.ここは,秩父中・古生層チャートが基盤となる山頂平坦面に,ヤエガワカンバの小林分が分布する.調査は,樹木個体の分布調査と表層土壌の調査を行った.
蕨山北斜面におけるヤエガワカンバの分布は,ミズナラやクリなどの高木性樹種が少ない林冠ギャップに集中した.林冠ギャップには,リョウブやアオハダ,ウリハダカエデなどが多くみられた.表層土壌は,林冠ギャップ内の調査地点では腐植層と粘土層が互層になる構造がみられたが,林冠ギャップ外の調査地点では上層に腐植層,下層に粘土層という安定した構造であった.このことから蕨山北斜面でも,林冠ギャップの出現がヤエガワカンバ林の成因になるといえる.林冠ギャップの形成には,互層になる土層の構造から斜面崩壊が関与している可能性がある.しかし,地すべり地形と比較して斜面崩壊が小規模なため,林分自体の規模も小さくなっていると結論した.