抄録
1 はじめに 全球的に氷河の縮小が顕在化する中で,熱帯に位置するボリビアの山岳氷河もその例外ではなく,氷河縮小の報告がされている(Vuille et al, 2008)。地球温暖化が主要な原因とされてはいるが,氷河縮小プロセスには,気温上昇に伴う融解量や昇華の増加や降雪量の減少,降雨量の相対的増加など考慮すべき観点は多く存在している。さらにこのような観点は,氷河周辺域の植生,土壌といった他の自然環境や社会環境に与える影響を考える上でも重要と考えられる。そこで本研究では,チェルキニ峰(標高5392m)の西側カールおよび南カールに温湿度計(2012年8月設置,測定間隔1時間),簡易雨量計(2013年8月設置)を設置し,氷河近辺の気候環境を把握すると共に,近隣の気象観測点のデータを用いて長期的観点から近年における気候環境の特徴を明らかにすることを目的としている。近隣の気象観測点として使用するデータは,Global Surface Summary of Day (GSOD)にコンパイルされているエル・アルト(ラパス)の日データであり,この観測点は対象氷河の南方約20kmの直線距離にある。解析期間は1973年~2013年の41年間である。 2 ラパスにおける近年の気候 ラパスの月平均気温は,5℃から9℃の間にあり,気温の高い12月から3月に年降水量の60%以上の降水がもたらされる。解析期間における年降水量は,増加傾向を示しており,特に12月から3月おける増加傾向が大きいことから,これらの月の合計降水量が年降水量に占める割合も大きくなる傾向を持っている。年平均気温は,上昇傾向を示すものの顕著ではなく,冬期,夏季において傾向が異なり,夏期に上昇傾向,冬期に低下傾向を示すことが特徴となっている(図1)。月平均最高気温は,全ての月において上昇傾向にあり,特に9月は上昇傾向が顕著である。一方,月平均最低気温は冬期を中心に低下傾向が顕著である。したがって,冬期における月平均気温低下は,最低気温の低下と最高気温の上昇を伴って生じていることが分かる。
3 ラパスとチェルキニ峰での気温の差違 2012年8月から2013年7月におけるチェルキニ峰カール内(標高4660m)の気温と同期間のラパス(標高4061m)の気温を季節変化の観点から比較した。解析期間において,いずれの地点も不明瞭ではあるがダブルピーク型の季節変化を示し,3月と11月に最大を示す。しかしながら,それらのピークの現れ方には違いが生じており,ラパスでは11月ピーク前後に高い気温が持続する一方,チェルキニ峰では3月,4月に高温が持続する傾向が認められた。また,ラパスでは年較差が5℃以上に達しているのに対し,チェルキニ峰では4℃に達していない。