日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0205
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発表要旨
世界のジオパークでガイドはどんなことを語っているか
世界ジオパーク現地審査の経験から
*渡辺 真人
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抄録
本講演では、演者が世界ジオパークネットワークの現地審査に参加した経験等に基づき、アジアを中心とした世界各地のジオパークでどのようなストーリーが語られているか、について紹介し、その問題点について検討する。ジオパークを世界で推進している世界ジオパークネットワーク(GGN)のbureau member と呼ばれる人たちが、各地からの新規申請と再認定の審査を行い最終決定する。その審査は、各地から提出された申請書と所定の自己評価票、及び二人の現地審査員が行う3—4日の現地審査の報告書に基づき行われる。現地審査はbureau member に加えて、各国のジオパーク経験者が現地審査員として参加する。現地審査員は二人で、bureau member が含まれないこともある。著者は2011 年から現地審査員として、マレーシアのランカウイジオパーク、イランのケシムジオパーク、中国の丹霞山ジオパークと秦嶺終南山ジオパークの再認定の現地審査に参加した。  再認定に参加した四ジオパークでのガイドや、当日説明に携わった専門家の説明に共通していたことは、ジオパークを俯瞰的に見るような全体的な視点の解説がなかったことであった。例えば、ランカウイジオパークではジオパークの範囲である島々を眺めることができる山にロープウェイで登ることができる。その山は固い砂岩でできているために周りより高く眺望が良く、石灰岩が分布する地域と砂岩が分布する地域の地形の違いが展望台からは明瞭であるにもかかわらず、展望台には地形に関する解説が全くなく、その山を構成する砂岩層の岩相と堆積年代に関する説明があるのみであった。  もう一つの例として秦嶺終南山ジオパークの例を紹介する。同ジオパークは西安市の南側にある山々を範囲とするジオパークで、地質学的には中生代始めに起こった二つの地塊の衝突現象が見られる場所である。一方、本ジオパークは秦の始皇帝が都をおいた。咸陽、隋・唐の都長安に隣接する。ガイドの話の導入として、そうした都の地理学的に見た立地条件などが語られることを期待したが、そのような話は全くなく、ユーラシア大陸の形成の話さえほとんどなく、衝突でできた変成岩の岩相(と言うより岩石の名前)や構造が各露頭で説明されるのみであった。  どちらの例においても、ジオパークに関わる専門家がジオパークをGeological Park としてとらえていることに原因がある。このような例は演者の見聞する限り、世界各地のジオパークに見られるようである。このような状況を打開し、地球の成り立ちと仕組み、そしてその上での人の暮らしをジオパークでより大きな視点で見せて、持続可能な社会の構築のための社会教育にジオパークが寄与するために、地理学者が世界ジオパークの審査プロセスに果たす役割は大きいと著者は考えている。
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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