抄録
平野の周縁部において,その背後に急峻な山地がある場合は,沖積錐とも呼ばれる小規模な扇状地が発達している場合がある.このような地域では,背後の急峻な山地からの土石流災害の危険がある.土石流災害の危険性を,土地利用から判別できれば,防災教育に有効であると考えられるため,小規模な扇状地とその周辺地域とで,土地利用を比較した.
大阪平野の北縁部および東縁部に位置する,北摂山地南麓と生駒山地西麓とを調査対象とした.それぞれの地域において,まず,等高線形状を基に,扇状地の範囲を抽出した.そして,その下方に位置する扇状地ではない地域について,扇状地と同程度の面積の範囲を抽出した.扇状地下方の地域の地形は,北摂山地南麓においては,平野と丘陵地とがあり,生駒山地西麓では,平野であった. いずれの地域も,扇状地の上流域は,土石流危険渓流に指定されており,扇頂付近は土石流危険区域に指定されている.
対象地域において,国土地理院によって1920年代および2000年前後に発行された2万5千分の1地形図を用いて,土地利用を分類した.各年次の土地利用分類結果から,地形別の土地利用の面積を集計した.扇状地については,土石流危険区域とそれ以外についても集計した.
1920年の土地利用は,生駒山地西麓と北摂山地南麓とでは,やや異なる(図1).生駒山地西麓では,いずれの地形においても,水田が57~85%を占めており,扇状地の方が,扇状地下方の平野よりも,その割合は低く,扇状地の中でも土石流危険区域で低かった.扇状地では,水田に代わって,集落・市街地および林地の割合が,やや高かった.ため池は,扇状地の2%を占めるに過ぎないが,ほとんどすべてが扇状地にあり,3分の2が土石流危険区域にあった.果樹園は2%に達しなかった.一方,北摂山地南麓では,水田が22~68%とやや低く,特に,扇状地下方の丘陵地では,その割合が低かった.扇状地では,生駒山地西麓とは異なり,果樹園が23%を占めた.ため池は,扇状地の2%を占めるに過ぎず,生駒山地西麓と同程度であるが,扇状地に集中するということはなく,扇状地下方の平野にも丘陵地にもみられた.
2000年の土地利用は,生駒山地西麓と北摂山地南麓とで同様の傾向を示す(図1).集落・市街地が多くを占め,いずれも70~95%に達する.その残りの多くを水田が占めており,あわせて79~98%を占める.樹木畑は,扇状地の2~3%を占めるに過ぎないが,いずれの地域においても,その多くが扇状地に立地している.
以上のように,小規模な扇状地の土地利用は,他の地形と明瞭に異なるわけではないが,果樹園,ため池,樹木畑のように,地域や時代によっては,小規模な扇状地に特徴的に分布するものもある.