日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 312
会議情報

発表要旨
ザンビア北西部における民族間の農耕形態と土地利用のちがい
*原 将也
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1. はじめに
アフリカの農耕民は生態環境の特性を認識し、その生態環境にあわせた農耕を営んでいる。アフリカでは微地形や標高、土壌の肥沃度などの生態環境のちがいを生かした農耕形態がみられる。たとえばザンビアのロジの人びとは、ザンベジ川の氾濫原の地形を高低差や土性のちがいによって区分し、それぞれの土地利用を変えている(岡本2002)。
ザンビアには、マメ科ジャケツイバラ亜科が優占する疎開林であるミオンボ林がひろがっている。そこでは、バントゥー系の農耕民が移動性の高い生活を営んできた。
本発表で取りあげるザンビア北西部のS地区には、もともとカオンデの人びとが居住していた。カオンデの人びとは焼畑農耕を営み、その生活は自給指向性の強いものであった(大山2011)。1970年代以降、周辺の農村や都市からルンダやルバレ、チョークウェ、ルチャジという異なる民族がS地区に流入し、現在では5民族が混住している。
本発表では、S地区に暮らす先住者のカオンデと移住者の人びとが選択する栽培作物を比較したうえで、人びとがもつ地域の生態環境に対する認識を示しながら、それぞれの土地利用のちがいについて明らかにする。

2. 研究の方法
現地調査は2011年9月から2015年3月にかけて計6回、約18ヶ月にわたって実施した。S地区の住民に対して、農耕形態と生態環境の認識について聞き取り調査を実施した。2012年8月には、人びとが認識している生態環境ごとに土壌を採取し、日本においてpH(H2O)、電気伝導度、全窒素含量、全炭素含量、有効態リン酸含量を調べた。2014年1月から2月には、S地区に居住する89人が耕作する耕作地の位置を、GPSを用いて測定した。

3. 先住者と移住者が栽培する主食作物のちがい
S地区の人びとは焼畑において、モロコシとキャッサバを主食作物として栽培していた。各世帯が栽培する主食作物をみると、モロコシはカオンデの世帯のみ、キャッサバはカオンデ以外の移住者の世帯で栽培される傾向にあった。この傾向は居住者のあいだでも強く認識されており、カオンデはモロコシ、移住者であるルンダやルバレはキャッサバというように、それぞれが嗜好する「伝統的な作物」を選択し、栽培しつづけているといわれている。

4. 生態環境の区分と土壌の理化学性
S地区の人びとは民族にかかわらず、生態環境を季節湿地と季節湿地の周縁部、アップランドの3つに分けて認識していた。季節湿地は雨季に湛水するため、耕作地としては利用されない一方で、ミオンボ林がひろがるアップランドは、季節湿地よりも標高が数メートル高く、耕作地として利用されている。季節湿地の周縁部とは、季節湿地からアップランドにかけてなだらかな斜面になっているミオンボ林のことであり、耕作地に適していると認識されている。
人びとは季節湿地の周縁部の土壌は柔らかく養分が多いため、アップランドの土壌よりも農地に優れていると説明する。土壌の理化学性を検討すると、季節湿地の周縁部の土壌のほうが有効態リン酸の含量が多く、電気伝導度も高いことから、相対的に土壌養分が多い可能性が示唆された。

5. 考察:農耕形態のちがいと人びとが利用する生態環境
耕作地の分布をみると、先住者のカオンデの人びとは季節湿地の周縁部、移住者の人びとはアップランドを耕作していた。カオンデの人びとは相対的に作物の生産性が高く、耕作しやすい季節湿地の周縁部を耕作していた。
移住者の人びとが栽培するキャッサバは、水分や土壌条件などで土地を選ばず、乾燥地や貧栄養の土地にも作付けできる作物である。そのためキャッサバは、相対的に貧栄養であるアップランドでも栽培することができる。先住者のカオンデと移住者の人びとのあいだでは農耕形態にちがいがあり、栽培作物と利用する土地が異なっていた。現在に至るまで両者のあいだで、耕作地の競合が生じることなく、それぞれが選択した作物を栽培していた。

参考文献
大山修一 2011. アフリカ農村の自給生活は貧しいのか?. E-journal GEO 5(2): 87-124.
岡本雅博 2002. ザンベジ川氾濫原におけるロジ社会の生業構造. アジア・アフリカ地域研究2: 193-242.

著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top