日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0107
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発表要旨
小地域の土地利用からみた上海市の都市更新
*任 海
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抄録



1.はじめに

中華人民共和国(以下,中国と略す)では,1990年代から上海市をはじめとしたいくつかの大都市で,都市更新の計画が制定され始めた.大都市の中心市街地では,伝統的な建築形式である里弄住宅や四合院など1階~3階建ての低層住宅が,タワーマンション,オフィスビル,ホテルなどの高層建物に建て替えられ,都市景観が一変した.その大規模なスクラップ・アンド・ビルドは,1950年代の先進国の都市部における都市更新を連想させる.本研究では,上海市における都市更新が引き起こした都心内部での土地利用の変化を調査し,その実態を詳細に地図化するとともに,人口分布の変化と対比させ,市・区レベルより詳細な小地域レベルで人口分布の変化と土地利用の関係を明らかにすることを目的とする.

 

2.対象地域の選定

本研究の対象地域として,現在中国で最も都市更新が進んでいる上海市を選定した.上海市の都心部である静安区では,19世紀後半~20世紀前半にかけてイギリス,アメリカ,フランスなどの欧米諸国が租界を設け,早い段階において都市化が展開した.また,1992年には,上海市は静安区を含む中心市街地にある老朽住宅のクリアランスにおいて中国で初めて土地使用権の譲渡制度を導入し,都市更新の最先端に位置している.静安区で実施された都市更新は,上海市における20年間の中心市街地の都市更新の縮図と考えられる.

 

3. 小地域からみた静安区の土地利用とその類型化

都市更新前の静安区は,租界地などの特殊な歴史経験をもつため,年代と用途が異なる建物が混在し,土地利用の多様化がみられた.1990年代になると,土地から効率的に利益を生み出すために,上海市都心部の静安区において大規模な都市更新が行われた.大規模な都市更新に伴い,静安区の土地利用は大きく変化した.本研究では,都市更新以後の土地利用図を作成し,静安区における現在の土地利用の特徴を考察する.また,各居民委員会の管理区域を小地域と見なし,その小地域の土地利用をクラスター分析で類型化し,静安区の小地域における都市更新の状況を分析する.

 

4. 静安区における都市更新と人口変化との関係

都市更新は中国の大都市の中心市街地における人口過密問題の解決策として公式に取り上げられた.上海市政府が制定した上海市マスタープラン(1999年~2020年)では,都市更新を手段として2020年までに中心市街地の人口規模を800万人以下に抑え,過剰人口を郊外に分散させることを明記した.その結果,都市更新の手法である「再開発」によって,市・区レベルでの人口分布の変化からみると,中心市街地の人口密度は低下した.一方,中心市街地における都市更新では,都心部における土地利用の変化に伴い,都心内部の人口分布の変化も引き起こしている.従来の研究で指摘されたように,静安区の人口変化は,区単位レベルでは減少したが,小地域レベルでみると一部の地域においては増加していることを,本研究では明らかにしている.

また,伝統的な住宅が大規模に取り壊された一方,優れた建物が歴史文化財として大量に保存され,都市更新の「保全」の手法を利用して静安区の地域的性格の維持に貢献した.

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