日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0201
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発表要旨
青森県の3市にみるまちづくりと大学の連携
*櫛引 素夫
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抄録
1.はじめに
青森県には計11の4年制大学が立地し、ほとんどは青森、弘前、八戸の3市に集中している。近年、いくつかの注目すべき動きがあり、その特徴は各市の市民協働施策と関わっている可能性がある。上記3市の比較を通じて、まちづくりと大学の関係を考察する。

2.青森市とCOC
青森市は全国の県庁所在地で唯一、国立大学がないことに加え、市内の4大学がいずれも市中心部から5~10km離れた郊外に所在する事情も手伝って、県内外の同規模都市に比べると学生の存在感が薄い。そのためか、学生を対象とした各種施策は進んでおらず、市役所にも学生・若者を担当する部課がないなど、地域社会全体として学生をまちづくりに参画させる機運は必ずしも高くなかった。 「地(知)の拠点整備事業」(COC)も、弘前大学と八戸工業高等専門学校が採択される一方、発表者が勤務する青森大学を含め、市内の各大学は採択に至らなかった。ただ、COC応募を契機として、青森大学では、立ち後れていた地域貢献の取り組みが一気に加速した。青森市や隣接する平内町、大学周辺の幸畑団地連合町会、さらには発表者が理事を務めるNPO法人青森県防災士会と立て続けに連携協定を締結し、さまざまな事業が進行中である。

3.青森大学と地域の協働
発表者がかかわる取り組みの中で大きな比重を占めるのは、2014年に大学もメンバーとなって発足した幸畑団地地区まちづくり協議会との協働である。団地内の交流促進や空き家活用策を探るシンポジウムの開催など、多彩な活動を展開し、2015年7月には空き家を借り上げて集会所として利用する事業もスタートした。 次いで大きな比重を占める平内町については2014年、地元の第三セクター・青い森鉄道も交えて実行委員会を組織し、人口減少社会の新たなデザインを模索する「若者ネットワークづくり事業」を進めている。2015年1月にキックオフイベント「銘酒とスイーツの夕べ」を開催、同年7月には定期的ミーティング「ひらないのカタリバ」が始まり、町内外を結ぶネットワークが構築されつつある。

4.協働と教育、研究
いわばゼロから始まった青森大学の地域貢献活動において、比較的小規模な市民協働・住民協働の回路がスタート地点となったことは、教育・研究の上で一定の必然性がある。 連合町会規模の地域や町村においては、人口推移や高齢化の状況そのものを、住民や職員が把握できる体制が整っておらず、大学が研究能力を発揮すべき空白が存在している。また、息の長い活動を始めるに際し、学生には一過性のイベントの参加者ではなく、一市民・住民としての視点から、地域に接触させるよう心がける必要がある。学生は既に人口減少・高齢化社会の担い手となりつつあるが、一般的に当事者としての感覚が希薄なためである。 学生の参画はこれまで、主に授業の枠で、教員が学生に活動を指示する形を採ってきた。しかし、地域活動を経験した学生から、その活動を武器に就職活動を乗り切り、志望する職を就く学生が現れてきたこともあり、自発的に活動を始める学生が増えている。

5.先行する弘前、八戸市
学生と地域を結ぶ取り組みは、青森県内では弘前市や八戸市が先行している。学生団体やサークルの地域貢献活動を対象として、公募形式で事業費を助成し、活動報告会を開いたり市長表彰を行う事業が、八戸市は2011年、弘前市は2012年に始まった。また、弘前市は広報誌の作成に女子学生を起用し、月1回1ページを「学生企画コーナー」に充てる施策を2012年2月にスタートさせている。いずれも、地域社会の側がお膳立てをして学生を参加させる形ではなく、学生をあくまでも市民、そして協働の担い手として明確に位置付けている点が特徴的である。

6.おわりに
これら3市における地域と大学の連携の度合い、そして教員の活動や貢献度が互いにどう関連しているかについては、これから検証が必要な状況にある。 ただ、発表者の印象によれば、従来型のイベントに形だけ「若者」「学生」を絡ませるのではなく、どこまでも学生を「主体」「当事者」として関与させるマインドが最大の鍵を握るように見受けられる。その意味で、大学組織や個々の教員はもちろん、行政や地域社会側の「協働」の視点が欠かせない。教室や授業の枠を離れて、いかに「市民」「社会人」としての学生を育てるか、大学組織や教員が自覚的な議論を重ねた上で、学生だけでなく実社会に働きかけていく営みの必要性を指摘したい。
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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