日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 302
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発表要旨
GISの標準コアカリキュラムと知識体系を踏まえた実習用オープン教材の開発
*小口 高村山 祐司久保田 光一貞広 幸雄奥貫 圭一山内 啓之
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抄録
GISの教育は、地理学の今後の発展のために重要である。欧米では1980年代にGISが急速に発展し、地理学にも積極的に導入されたが、日本での導入は遅れた。この遅れは今日までにかなり解消されたが、全国の地理学科や関連学科におけるGIS教育の量と質が十分ではないことも指摘されている。一方、日本の地理学関係の研究者が、GIS教育を充実させる3つの科学研究費(基盤研究A)のプロジェクトを行ってきた。具体的には「地理情報科学標準カリキュラム・コンテンツの持続協働型ウェブ・ライブラリーの開発研究」(平成17~19年度、代表者:岡部篤行)、「地理情報科学の教授法の確立-大学でいかに効果的にGISを教えるか-」(平成17~20年度、代表者:村山祐司)、「地理情報科学標準カリキュラムに基づく地理空間的思考の教育方法・教材開発研究」(平成21~25年度、代表者:浅見泰司)である。その結果、GIS教育の基本となるコアカリキュラムと、GISの諸概念の学習および思考法を発展させるための教材が整備され、ウェブや出版物を通じて公開された。 しかし、GISを活用できる人材を育成するためには、実際にデータを取得・入手し、ソフトウェアを操作し、野外調査にもGISの関連技術を活用し、成果をGISを用いて効果的に発表する技法の教育が必要である。これは2014年9月の日本学術会議の提言「地理教育におけるオープンデータの利活用と地図力/GIS技能の育成」でも強調されている。このような教育を実現するためには、GISに関する実習の充実が重要である。上記したプロジェクトでは、講義用の資料や教材の整備が主な目的であり、実習に関する検討は少なかった。 そこで演者らは、これまでの科学研究費によるプロジェクトの成果を踏まえつつ、大学の学部や大学院におけるGISの実習を充実させるための教材を開発し、社会に公開するための新たなプロジェクトを開始した(科学研究費基盤研究A「GISの標準コアカリキュラムと知識体系を踏まえた実習用オープン教材の開発」、平成27~31年度、代表者:小口 高)。開発する教材では、室内でのGISソフトウェアの活用、GISと関連した野外調査、インターネットの活用の3点に関する技法を主に取り上げる。また、開発する実習の教材を、以前のプロジェクトで作成されたGIS教育のコアカリキュラムと講義用の資料や、地理学の古典的な概念と関連づける。また、情報系の研究者も本プロジェクトに参加し、情報科学を学ぶ学生のためのGIS教材の開発と、地理系との連携を模索する。 教材の構築の際には学部3~4年生の実習の授業や、自主学習を念頭に置く。一方で高価な機器が必要といった制約がある先端的な課題については、概念を紹介するウェブページや、機器を操作する場面のビデオなどの教材を整備し、機器がなくてもある程度の学習ができるようにする。 本プロジェクトを通じて作成された実習教材は、試用と改良を経た後にインターネットを通じて一般公開し、学部や大学院のGIS実習や、学生や市民の自習に利用できるようにする。とくに無償のGISソフトウェアであるQGISを教材の主要な対象とし、実習に用いるデータも無償でダウンロードできる国土基盤情報などを活用することにより、経費をかけなくてもGISを学べるようにする。また、利用者が教材の問題点を報告し、教材を随時改善するための仕組み(オンライン掲示板等)を整備する。さらにアンケート等を通じて、GIS実習が地理学的認識の向上に与える効果も検討する。 本プロジェクトには現時点で日本全国の31名の研究者が参画している。成果は上記のようにオンラインで公開するとともに、日本地理学会・地理情報システム学会の学術大会などでも随時紹介していく予定である。
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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