日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 217
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発表要旨
東京都心周辺部における共働き世帯の居住地選択と育児
荒川区南千住地区の事例から
*久木元 美琴
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抄録

研究の背景と目的  1990年代後半以降,東京大都市圏の都心部での人口回復が顕著となっており,従来都心居住者として指摘されてきたシングル世帯やDINKsのみならず,ファミリー世帯の増加がみられる.都心居住はこれまで指摘されてきた郊外の「時空間的制約」を軽減し,「働きながら子育てをする場所としての東京都心」として指摘されるようになった(矢部,2015).これまで,東京都心や都心湾岸部の住民を対象とした居住地選択や生活・就業の実態については様々な蓄積が進められているが,共働き子育て世帯については捕捉の困難さもあって,十分に実態が明らかにされているとはいいがたい.そこで,本研究では,共働き子育て世帯に焦点をあて,居住地選択や育児調整の実態を明らかにすることを目的とする. 対象地域と方法  対象地域として荒川区南千住4丁目および同8丁目を選定した.南千住地区の東部に位置する対象地域では,明治期以降,紡績工場と鉄道貨物基地を中心に密集住宅地や商店が立地したが,1980年代後半以降,主に防災を目的とした大規模な再開発と区画整理が進められた.特に1990年代後半以降,ファミリー向け物件を含む中高層住宅の供給が進んだほか,災害時の避難所としても利用される公園の整備も進められた.その結果,対象地域を含む南千住東地区の人口は,1998年の2008年にかけて2倍以上に増加し,特に子育て世帯の増加がみられたために,同区平均と比較しても15歳未満人口比率が高い地区となっている.  方法として,共働き子育て世帯の居住地選択と就業・育児の実態に関するアンケート調査を,南千住4丁目と8丁目に位置する保育施設9か所のうち許可を得られた8か所において実施した.アンケート票は施設で配布され,各回答者から調査者へ郵送で提出され,配布数671票に対し,回収数185票(回収率27.6%)であった.本報告では,このうち南千住4・8丁目に住む世帯131票を分析対象とする. 結果  回答世帯131世帯のうち,集合持家は87世帯で,購入価格では3000万円台後半から4000万円台前半が最も多く,住宅の広さでは70~80㎡がボリュームゾーンとなっている.他方,集合賃貸は41世帯あり,住宅の広さは60~70㎡台が最も多く,月あたりの平均家賃支払い額は16.1万円であった.保育所での調査のため基本的に妻は就業しており職種では事務職にならび,看護師等の専門職の割合も同程度に高い点が注目される.また,世帯年収では700~999万円および1000~1499万円が多いが,夫の収入では500~699万円および700~999万円が最も多く,世帯年収と妻の収入が相関している傾向がある.出身地では,夫妻ともに東京圏出身は41%,ともに東京圏外出身は20%で,東京圏出身の夫は59%,東京圏出身の妻は56.5%であった. 住宅を選ぶ際に重視した項目で選択率が3割を超えたものは,選択率の高い順に,「夫の通勤利便性」(47%),「妻の通勤利便性」(44%),「住宅の広さや間取り」(41%)「住宅の価格や家賃」(37%),「親族との距離」(37%),「公園や道幅の広さ」(36%)であった.これらを夫妻の出身地別にみると,夫妻ともに東京圏外の世帯では通勤利便性や住宅の広さや間取りが重視されているが,夫妻ともに東京圏内の世帯では,通勤利便性と同率で親族との距離が選択されている. 回答者の平均通勤時間(片道)はいずれも東京圏の平均より短く,短い通勤時間が夫の参与度に影響していることが推察される.家事や育児における夫の分担率が5割以上を示す項目として,「保育所の送り」(31%)のほか,「子の入浴」(18%),「夕食の後片付け」(18%)で相対的に高い値が示された.また,夫以外の親族が近くに住む世帯や同居している世帯では,保育所の送迎や入浴・夕食などを分担している場合がみられるほか,親族サポートが得られない世帯で夕食サービスやベビーシッター等の外部サービスの部分的な利用が,多数ではないもののみられる.これら日常的な家事や育児以外に,病気時の家事や育児,出張等の家事支援において,66%の世帯が夫以外の親族からのサポートを得ている.  以上のように,本調査が対象とした共働き子育て世帯では,共働きと子育てを両立するために居住地選択のうえで通勤利便性が最も重視されていること,親族が東京圏内に住む世帯では親族との距離も同程度に重視されていること,また夫と妻の分担や親族サポート・外部サービスを利用した育児が行われていることが示された. ※本研究の遂行にあたり,科学研究費補助金(課題番号25284170, 代表者:久木元美琴,および,課題番号25370922,代表者:川口太郎)を使用した.

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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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