日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 512
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発表要旨
食品企業による生鮮トマト栽培への参入とその地域的影響
カゴメ株式会社による高知県三原村への進出を事例に
*後藤 拓也
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抄録

2000年代以降,日本においてはグローバル化に耐えうる農業を実現すべく,農業の構造改革が進行している。そのなかでも,2000年代の農地法改正によってドラスティックな展開をみせているのが「企業の農業参入」である。近年の大きな特徴として,食品企業などの大企業が自社で国産原料を確保すべく,1社で県域を越えて広域的に産地形成に関わるケースが増えている。よって本報告では、日本において大企業が広域的に農業参入を進めてきた事例として,カゴメ株式会社による生鮮トマト栽培への参入を取り上げ,以下の論点を明らかにした。具体的には,①カゴメがどのような立地戦略にもとづいて農場を配置してきたのか,②カゴメの進出によって参入先の地域がいかなる影響を受けたのか,という各論点である。研究方法としては,2014年8月にカゴメ本社への聞き取り調査を行い,2015年2月に高知県三原村において現地調査を行った。
カゴメは1990年代後半からの「健康ブーム」や「CSRブーム」を背景に,生鮮トマト栽培への参入を進めた。カゴメは1999~2006年の短期間で全国に54農場を立地させるなど,全国的な生産体系を形成してきたことが判明した。カゴメは生鮮トマト農場の立地条件として自然的要因(日照時間や平均気温)や経済的要因(市場への近接性)を重視している。しかし現実的には,農場分布パターンはそういった要因だけに規定されている訳ではない。なぜなら,カゴメの参入先決定においては,補助金を伴う「自治体からの誘致」という社会的要因が大きく影響しているためである。
高知県三原村では,1990年代後半から遊休農地の活用が課題となり,村ぐるみでカゴメの誘致を行ってきた。しかし,過疎地域である三原村は市場から遠隔地にあり,生鮮トマトの需要がピークとなる夏期に生鮮トマトの出荷量が鈍化するなど,収益面で不利な状況に置かれやすい。それにも関わらず,三原村の農場は,カゴメの直営農場のなかでも良好な経営を維持し,村の農業生産額の50%近くを占めるなど,地域農業に大きな役割を果たしてきた。その背景には,どのようなメカニズムが働いており,いかなる課題が潜んでいるのであろうか。その詳細については,当日報告を行う。
   

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