日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1204
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発表要旨
日本アルプスにおける天然ダムの形成・決壊
*井上 公夫
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抄録

◆はじめに  本州中央部には,フォッサマグナ(大地溝帯)に沿って日本アルプスが南北に走り,地質構造が非常に複雑なため,大規模土砂移動(地すべり・大規模崩壊・土石流)が地震や豪雨、噴火を誘因として数多く発生している。演者は歴史時代に発生した土砂災害事例を収集整理している。特に,日本各地で山地河川が河道閉塞され,天然ダムが形成・決壊した61災害168事例1),2)を収集・整理した。発生密度の高い日本アルプス周辺の事例を紹介する。◆五畿七道地震(887)による事例  仁和三年七月三十日(887.8.22)に五畿七道地震(南海トラフ沿いの巨大地震)が発生し,多くの地区で津波災害や土砂災害が発生した。この地震によって,山梨県の釜無川上流小武川のドンドコ沢で大規模岩屑なだれ(推定土砂量1700万m3)が発生した3),4)。また,北八ヶ岳の火山体が強く揺すられ,大規模な山体崩壊(移動土砂量3.5億m3)が発生し5),6),大月川岩屑なだれとなって流下し,千曲川を河道閉塞し,日本で最大規模(湛水高130m,湛水量5.8億m)の天然ダムを形成した7)。303日後に決壊し,仁和洪水砂が千曲川を95kmも流下し,条里制遺構を埋没させた8)。◆越後南西部地震(1502?)による事例 姫川右岸の真那板山が大規模崩壊(堆積土砂量5000万m39),10)し,姫川は河道閉塞(現在も葛葉峠として残る)され,大規模な天然ダム(湛水高140m,湛水量1.2億m3)が形成され,数年後に数回に分かれて決壊した11),1)。湛水域の下寺地区には常誓寺があったが,現在は糸魚川の市街地に移転した。松本砂防事務所では,姫川の侵食防止のため,対策工事が行われ,現在は元の崩壊堆積物の状況は見えなくなった12)。1)田畑ほか(2002)天然ダムと災害。2)水山ほか(2011)日本の天然ダムと対応策。3)苅谷(2012)地形など。4)苅谷ほか(2014)合同学会。5)河内(1983)地学雑誌など。6)石橋(1999)地学雑誌など。7)井上ほか(2010)地理など。8)川崎(2010)佐久など。9)古谷(1997)地すべり学会シンポ。10)小疇・石井(1998)地理学会予稿集。11)井上(1998)北陸の建設技術。12)松本砂防事務所(2003)土砂災害冊子。13)井上ほか(2014)歴史地震。14)市川大門町教育委員会(2000)市川大門一宮浅間帳。15)都司(1993)地震学会予稿集。16)鈴木ほか(2009)地すべり学会。17)松本市安曇野資料館(2006)。18) 森ほか(2007)砂防学会誌。19)白馬村(1959)白馬村誌。20) 横山(1912)地学雑誌。21)町田(1964)地理学評論など。22)稗田山崩れ100年事業実行委員会(2011)シンポジウム冊子。◆宝永地震(1707)による事例 宝永四年十月四日(1707.10.28)に発生した宝永・南海地震(M8.4が2回)は,津波被害だけでなく,多くの土砂災害(現時点で17か所)が発生した2),13)。日本アルプス南部でも,安倍川上流の大谷崩れ,富士川流域の八潮崩れ,白鳥山等の大規模崩壊・天然ダムが知られている1),2)。富士川左支・下部川上流の湯之奥では,天然ダム(湛水高70m,湛水量370万m3)が形成され,下流の下部温泉などの住民が決壊を恐れて避難した14),2)。川筋の人夫2800人が出て開削工事をし始めたが,崩壊岩塊が固く湛水を排除できなかった(徐々に湛水域に土砂が溜まり,海河原と呼ばれる)。湯之奥上流部は武田の金山として採掘が行われていたが,宝永地震時には衰退しており,詳しい史料は残っていない。航空写真やLP図で崩壊地形は良く分り,2011年の台風15号の襲来で,林道付近にかなり大きな変状が現れた。◆信州小谷地震(1714)による事例 正徳四年三月十五日(1714.4.28)の地震で小谷村から白馬村で大きな被害がでた15)。鈴木ほか16),2)は史料分析により,姫川右岸の岩戸山で大規模地すべりが発生し,姫川本川を河道閉塞し,湛水高80m,湛水量3800万m3の天然ダムが形成されたことを明らかにした。3日後の18日夜に天然ダムは決壊し,下流域に大きな被害をもたらした。岩戸山周辺にはさらに大規模な地すべり地形が存在し,この地すべり全体が大きく変動すれば,白馬村の北城盆地全体を水没させる可能性がある。昨年の12月の神城断層地震によって,岩戸山周辺でも小規模な崩壊が発生した。雪解け後に大規模地すべり地形に地形変化がないか,確認調査をすべきである。

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