抄録
1.目的と方法 本研究は,積雪寒冷地における保育施設の津波集団避難の対策と課題や自治体の災害対策支援について検討を行う. 対象地域は北海道で津波浸水想定域内の人口が最多となる北海道釧路市であり(橋本2014),津波浸水深4.0m以上の地域にある認可保育園(13園)と認可外保育園(4園)に対して,現在の津波避難対策および懸念に関して聞取り調査や質問紙調査を行う.この結果から,津波災害対策やその課題を保育施設の集団避難時の移動面と災害対策等の運営面に分けてまとめる.さらに,認可保育園と認可外保育園の災害対策や懸念に関する差異を検討する.
2.保育施設と自治体の災害対策と課題 保育施設の課題と対策をみると(図1),冬季にみられる課題が多く,特に移動面の課題である歩行速度の低下や避難効率の低下への対策が不十分だと推測される.また,避難施設の増設や暖房設備の設置など,避難施設の質や量の充実が必要だとわかる.
3.認可保育園と認可外保育園の災害対策における差異 認可保育園と認可外保育園の災害対策をみると,認可保育園より認可外保育園のほうが介助者となる保育士や職員が少ない傾向がみられる.これは,認可外保育園のほうが認可保育園よりも緩い職員配置基準が採用されていることが要因と考えられる.
4.結論 本研究では以下のことが明らかになった. 1)冬季の低温を考慮した暖房設備の設置が進んでおらず,避難施設の量的拡充に加えて,今後は質的向上が自治体の支援として求められる. 2)介助者不足の時間帯は認可保育園,認可外保育園双方にみられ,近隣住民の災害時支援を自治体が開く地域合同避難訓練等で促進する必要がある. 3)認可外保育園のほうが認可保育園よりも災害時の介助者が少ない傾向にあると考えられる. 以上より,福祉施設の災害対策における課題は自然環境や,福祉政策,住民との共助関係などの背景から発生しており,国や自治体の減災政策に加えて,保育施設や住民による自助や共助を最適化する支援や災害を考慮した福祉政策の実現が重要となるであろう.