日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P033
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発表要旨
スウェーデンにおける融雪出水の発生傾向
*竹本 統夫
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抄録

Ⅰ. はじめに
平年であればほぼ全土で降雪が見られるスウェーデンは、春になると融雪によって河川の水量が大幅に増し、しばしば水害に発展する。この大幅な増水はvårflod(ヴォールフロード、春の洪水)と呼ばれ、3月〜5月にかけて各地の河川で発生するが、近年の気象の変化によって、発生時期、発生数が変化していることが報告されている。 本稿ではスウェーデン北部と南部、それぞれの地域におけるvårflodの発生傾向と気象状況との関連を調べ、スウェーデンにおける近年の環境変化と影響を明らかにする。
Ⅱ. 調査地域概要
スウェーデンは国土の大部分がケッペンの気候区分でDfに属している。北部に行くほど降雪が多くなり、またノルウェーとの国境を接する西部の山岳地帯は大西洋の影響を受け、平地よりも降雪が著しい傾向にある。スウェーデン全体の水収支を見ても、北部の流出量が一番多く、次に南西部の北海沿岸、南部の高地と続いている。

Ⅲ. 研究方法

本研究では調査対象となる各観測所の過去の流量データから流量の変化を監察する。期間は1961年〜1990年、および1990年以降の二種類とし、それぞれ観測所毎に渇水年と豊水年を挙げ、その年の流量と周辺の気温、降水量、積雪深との関連性、およびそれらの変化の傾向を考察する。
Ⅳ. 結果と考察
南部においては各観測所の比流量には、2000年以降とそれ以前で明確な変化が見られた。特に顕著なのは流量のピークを迎える月の変化で、2000年以前は12月〜翌5月、特に春(3月〜5月)の間に流量が最大になる傾向が見られたが、2000年以降は6月〜11月の期間にピークを迎える年が急増している。流況曲線を見ると、90年代以降はカーブが緩やかになり、中間値の水準が上がっていることが分かる。
気象との関連を見ると、流量の変化と積雪深との関連が特に強いことが分かる。90年代以降は雪の溶けきる時期が以前と比べて1ヶ月ほど早まっており、冬期の降水量も近年は全体的に減少傾向にあることが伺える。
近年では冬期の気温の上昇と乾燥が進んでおり、結果的に降雪、積雪も減り、vårflodの発生条件が揃いにくくなっている考えられる。
北部においては長期間にわたって流量の変化が安定している。冬が厳しいほど融雪時の流量の増加が著しいが、毎年の融雪出水の量や発生時期に南部ほどの大きな差は見られない。
Ⅴ. おわりに
本研究ではスウェーデンの環境変化を融雪現象の観点から明らかにしようとしたものである。今後は気象の変化の影響をより受けやすい南部の河川に研究対象を絞ることでより詳細な傾向を掴み、気候の変化がスウェーデンの水文環境に与える影響を明らかにしたい。

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