日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 304
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発表要旨
ボリビア・アンデスのチャルキニ峰周辺のリャマ・アルパカ放牧活動と自然や社会
*水野 一晴小坂 康之
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抄録
1.家畜の生育環境 ボリビアアンデス、コルディレラ・リアルのチャルキニ峰(5740m)の南氷河周辺地において、放牧活動について調査した。リャマLlama(スペイン語)はアイマラ語でKharwaカルワ(オス)、Khacho Kharwaカチョカルワ(メス)と呼ばれ、アルパカAlpacaは両語の区別はない。 各牧畜民世帯がどの家畜を飼うかは自然条件によっている。
リャマとアルパカの共通条件:暑さと湿気を嫌うため、高度4700m以上が生育適地で限界下限高度は4000m(ただし、谷間など局地的に低温地であれば可能)である。
リャマ
:体が大きなリャマを飼うには広い放牧地を必要とする。アルパカより乾燥した草を好み、病気にも強い。
アルパカ
:アルパカが好むイネ科で背丈が低い柔らかい草のPoaceae sp.が生育する湿潤地で放牧される。現地ではその草はChijiチヒと呼ばれているが(羊も食べる)、アイマラ語のChijiは「小さな草」という意味で総称なので、特定の種の地方名ではない。
:高度3000m~4700mくらいの高度で飼われる。羊は高標高で飼えないが、その最大理由は積雪である。羊は雪の中を歩くと凍傷になり、日ごとに患部は腫れて約3日後には死亡する。そのため、降雪がある日は家畜囲いの中から出さず、地面の雪が溶けてから出す。
:住居周辺の狭い草地で飼うことができる。
2.家畜利用
リャマ:おもに食肉生産のために飼われ、乳は利用されず、毛も椅子のカバー程度にしか利用されず価値が低い。肉は1頭あたり大きなもので800Bs、小さなもので300-500Bs で牧畜者自らマーケットで販売する。リャマの肉は天日で1-2ヶ月干して保存食にし、主に野菜と一緒に煮込んでスープとして食される(たまに焼き肉)。
アルパカ
:毛は毎年1回9-10月に刈られ、セーターの原料になる。1頭から取れる毛のマーケットでの販売価格は180-240Bsである。乳は利用されない。
:毛は毎年1回9-10月に刈られ、ソックスの原料になる。1頭から取れる毛のマーケットでの販売価格は5-10Bsである。羊の肉の量は少ないので干し肉にせず、ほとんど自家消費でスープにして食べる。羊の乳は飲まれ、チーズも作られるがバターはボリビアでは作られない。
 3.放牧形態 リャマとアルパカは好む牧草が違う上、交配種が生まれるのを嫌う牧畜民によって、別々に放牧される。オスのリャマがメスのアルパカを襲ってできた子供は、その繁殖を恐れる牧畜民によってすぐに殺される。リャマとアルパカの交配種はよい毛が生えず、体が小さいため、よい毛の生産や食肉の量という点で劣るからである。  リャマの繁殖には、ある世帯では2頭の種オスを選び、それぞれ約40頭のメスとかけあわせていた。  放牧は朝6-7時頃、牧夫が家畜を連れて放牧地に行き、牧夫はすぐに居住地に戻る。放牧場所は草の保全のため毎日変わる。夕方5-6時頃に家畜のみで戻ってくるが、戻らないときは牧夫が連れ戻しに行く。  近年は、放牧労働の厳しさから若者が町に出ていく傾向があり、牧畜からジャガイモの農耕に移行している世帯が増えつつある。
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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