日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 104
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発表要旨
房総半島における遺跡産出の鳥類化石群からみた自然環境と人為的作用
*平塚 直史江口 誠一桑原 和之箕輪 義隆
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抄録
1.はじめに
これまで古環境復元において,花粉や植物珪酸体などの陸上植物化石,貝類や魚類などの海洋生物化石と,陸・海域でそれぞれ異なる動植物化石で行われてきた.動物の中でも特に鳥類は,その双方に生息し,淡水域の湿地,砂堆域,海域などの地形環境により,種ごとに棲み分けている.よって,鳥類化石はそれらを共通の視点で復元する環境指標となり得ると考えられる.  過去の鳥類相の把握は,地層中から産出した鳥類化石に頼る部分が大きい.日本は酸性土壌に広く覆われていることから,鳥類などの動物の骨は分解が進むが,貝層などの弱アルカリ環境ではこれらの骨が保存されることがある.この層は,貝塚などの人工堆積物が主であり,自然環境に適応した在来種起源と人為によるものが混在している.本研究では他の地域と比較し貝塚数が多い房総半島を対象として,鳥類化石相から当時の自然環境を明らかにするとともに人為的な作用も考察した.

2.方法
鳥類化石の産出リストは,既刊の遺跡調査報告書により作成した.その中から生息の可能性,同定の信頼度などで分類群を選別,抽出し,それぞれについて現在の低・台地の分布図に産出遺跡の地点をプロットした.また,ベースとなる当時の沿岸域の景観を設定するために,縄文海進時の海岸線を想定して現在の低・台地境界から遺跡までの直線距離をGISにより測定した.

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.結果と考察
52の遺跡で鳥類化石が見られ,その中で地形との対応関係が捉えられたものとして淡水域の湿地に生息するカモ類,砂堆域のキジ類,海域周辺のウ類,アビ類,ミズナギドリ類,アホウドリ類の6分類群が選別,抽出できた. このうち現生において,ウ類は主に後浜に生息するが飛翔するため内陸でも見られる.アビ類は前浜にて泳ぐため内陸では見られない.ミズナギドリ類は比較的体長が小さいことから,風に運ばれて内陸でも見られるが,アホウドリ類は大きく,内陸ではほとんど確認されない特徴をもつ. それぞれについて現在の低・台地の分布図に産出遺跡の地点をプロットし,GISによってその境界からの距離を求めた.カモ類,キジ類は広範囲から産出しており,これは比較的多様な環境に生息できることを示している.また,当時も狩りの対象とされ,人為的に遺跡に持ち込まれた可能性も高い.アホウドリ類,ミズナギドリ類,ウ類は現生における内陸への出現状況と一致するが,アビ類は異なる.アビ類は食用とされるなど,人為的に内陸遺跡に運搬されていたことが考えられる.よってその範囲まで海域からの資源が流入していたことがわかる.鳥類化石は当時の自然環境を反映しており,それに付随する人為的な作用についても読み取ることができた.

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.まとめ
各遺跡における他の産出種や地形,周囲の環境などを総合的に考える必要があるが,鳥類化石によりその立地環境を把握することができ,人為的な作用についても示した.今後は貝塚周辺域などでの当時の人々の行動範囲や食料の調達方法といった人間活動との関連付けを行う必要がある.
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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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