日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P023
会議情報

発表要旨
乗鞍岳での表面礫移動観測による残雪砂礫地の侵食プロセス
*松本 穂高小林 詢
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
目的
日本の高山において積雪が晩夏まで残る地点では,植生が進出できないため砂礫地が形成される。その残雪砂礫地は一般に窪む。その窪みをもたらすのは,砂礫地内の侵食作用である。その侵食にはどのような土砂移動が関わっているのか。その土砂移動のプロセスを解明するのが本研究の目的である。今回,下に述べる方法を用い土砂移動と地温を高い精度で把握することができた。そのデータをもとに残雪砂礫地内で起こる土砂移動プロセスを考察したので報告する。
方法
長野県乗鞍岳中腹の標高2540m付近に存在する残雪砂礫地において,筆者らは2004年から土砂移動および地温の1時間インターバル連続観測を行っている。土砂移動観測の装置として,2010年にポテンショメーター式変位変換器を用いたソリフラクションメーターを製作し,フィールドに導入した。これは,ターゲット礫に結んだワイヤーの伸び縮みを電圧の変化で検出し変位に変換させる装置である。従来用いてきたペイントライン法では移動のタイミングを把握することはできず,またひずみプローブ法では移動のタイミングは把握できるものの,年間10cm以上におよぶ大きな移動には対応できない。さらに最近取り入れられている自動撮影カメラを用いた方法も,積雪が10mにおよぶ本調査地への適用は困難である。そこでソリフラクションメーターの利点を生かし,この調査では1mまでの斜面下方移動を観測し,その移動量を残雪砂礫地内の3地点間で比較することとした。この3地点では,融雪タイミングおよび凍土融解の進行速度を得る目的で地温も観測した。本発表では2012年10月~2014年10月にわたる2年間分のデータの分析結果を示す。
結果と考察
観測から次の結果を得た。
①3地点とも年周期および秋季に日~短周期の凍結融解サイクルが発生した。これに伴い,特に秋季に顕著な移動が全地点で見られた。
②各地点で融雪直後に凍土融解が開始し,その後の3日間で大きな移動がみられた。
③無積雪期におけるまとまった降雨に合わせ,顕著な移動が発生した地点があった。
④積雪下の凍結状態の間にも移動がみられた地点があった。
これらの土砂移動は,それぞれ次の移動様式と考えられる。
①年周期凍結クリープおよび短周期凍結クリープ,②ジェリフラクション,③降雨によるウオッシュ,④積雪グライドによる引きずり。
これらが複合したケース,たとえば地点Aの融解開始後2日目に短時間の凍結が発生したケースでは,わずか2時間で2.0cm移動した。また地点Bの融解開始後3日目に計70mmを超える降雨があったケースでは,半日あまりで1.6cm移動した。これらの移動を様式ごとに比較した結果,凍結クリープおよびジェリフラクションが主要な移動様式であり,地点によって降雨ウオッシュもあることがわかった。砂礫地内における移動様式の地理的差異については,残雪からより早く解放される地点でのみ日周期凍結クリープによる移動がみられたが,現時点で一般化できる明確な傾向はつかめていない。
著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top