日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 916
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発表要旨
日用品を扱う店舗の立地確率の推定と買い物困難地域の予測
*渡邉 俊介磯田 弦
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抄録



日本はこれから長期の人口減少と急激な高齢化に直面することになる。国立社会保障・人口問題研究所の平成24年1月推計によれば、合計特殊出生率を1.35と仮定した場合、日本の人口は2010年の1億2,806万人から2030年の1 億1,662 万人を経て、2055年には9,193万人になると予測される。また、同様に老年人口(65歳以上人口)の比率を見ると、2010年の23.0%から、2030年には31.6%、2055年には39.4%と予測されている。この長期的な人口減少と高齢化に加え、近年の小売業の大型店への集約化から、買い物弱者の問題が農山村部のみならず地方都市にも影響が出てくると考えられる。そこで本研究では、宮城県全域を対象とし、日用品を扱うコンビニ、スーパーマーケット(以下、食品スーパー)、ドラッグストア、ホームセンターの立地を、近隣近傍人口数と近隣近傍従業者数、近隣近傍店舗数によって説明するモデルを構築し、その立地確率を算出する。また、日用品店舗の立地確率を算出するモデルを構築することで、今後の人口減少によって日用品の店舗が存続できなくなる場所を予測することができ、買い物弱者の発生する場所を特定することが出来る。

日用品店舗立地確率を求めるためにロジスティック回帰分析を用いる。観測単位は地点であり、従属変数は各地点の日用品を扱う店舗の立地の有無である。また、独立変数は各地点の近傍人口数、近傍従業者数、道路種別(幹線道路または一般道路)、近傍の同業種他店舗数(例.従属変数が食品スーパーの場合時、独立変数に食品スーパーの近傍店舗数)、近傍の異業種店舗数(例.従属変数が食品スーパーの時、独立変数にコンビニ、ドラッグストア、ホームセンターの近傍店舗数)である。上述の近傍はアプリオリには決めず、各地点より0~250m、250m~500m、500m~1㎞、1㎞~2㎞、2㎞~5㎞の環帯の人口数や従業者数、店舗数を集計して独立変数に同時に投入した。ただし、多重共線性を考慮し、一部の独立変数には0~500m、0~1㎞を適用している。

ところで、説明変数の「近隣近傍」の定義が都市部と農山村部で異なることが想定される。なぜなら、日常的な買い物の主な移動手段が地域によって異なるからである。農山村部では日常的な買い物にも自動車を利用するのが一般的であるが、都市部では徒歩や自転車での買い物が可能である。したがって、地域による空間的商圏証券範囲の違いを考慮するために、地理的荷重加重回帰(Geographically Weighted Regression、以下GWR)を用いる。

回帰分析の結果から、近傍人口数および近傍従業者数が店舗立地確率に正の影響を与えるが、その影響は地点によって異なることが分かった。例えば、食品スーパーの立地確率が50%以上となる500m内人口を求めると、その成立人口は地域によって大きく異なり、仙台市太白区や登米市付近では2,400人程度、仙台市泉区や大崎市付近では4,000人となる。
これらに加え、近傍の同業種・異業種の店舗数が店舗立地に強い影響があることが分かった。距離帯による業態間の関係をまとめたものが表1であるに示す。「競合」は同業態間の係数が負の場合、「代替」は異業態間の係数が負の場合、「補完」は異業態間の係数が正の場合、「代替」は異業態間の係数が正の場合を表している。同じく、食品スーパーの立地確率をみ見てみると、0~250mではコンビニと補完関係でありになり、250m~1㎞では代替関係となる。これは食品スーパーが、コンビニ食品スーパーの直近近くにはコンビニは立地しやすいが、少し離れるとコンビニが立地しにくくなることを示している。また、食品スーパーはドラッグストアやホームセンターの近傍には食料品スーパーの近くに立地しやすいことも読み取れる。これらの影響は大きく、食品スーパーの近傍にドラッグストアとホームセンターが立地していると、それぞれ500m内人口が2,800~6,400人、3,000~7,900人増えた場合と同程度の効果があることが回帰式からわかる。

したがって、将来の店舗立地(や撤退)を予測するには、代替・補完関係にある異業種店舗の立地を同時に予測する必要がある。
 本報告では、将来の人口および従業者数の推移のシナリオにもとづいて、各種店舗の立地と撤退のシミュレーション結果を含めて報告し、将来の買い物困難地域の発生を予測する。

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