日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P012
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発表要旨
東北地方三陸海岸南部, 山田平野における完新世の環境変遷
*山市 剛須貝 俊彦松島 義章松崎 浩之
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抄録

1.背景・目的
三陸海岸南部における地殻変動の傾向は地形・地質学的スケールと測地学的スケールで異なる(宮内, 2012など)が, それに関する整合的な説明はなされていない.沖積平野の堆積物を分析し, 地殻変動を含めた完新世の環境変遷を明らかにする必要がある.三陸海岸南部の沖積平野における先行研究は少なく, 丹羽ほか(2014)が陸前高田において完新世の地殻変動について検討している他は, この課題を解決するための精度が十分とは言い難い.本研究では, 三陸海岸南部における完新世の地殻変動と環境変遷に関する新たな事例を得ることを目的とする.
2.研究地域・研究方法
三陸海岸南部の平野の中で山田町(以後, 山田平野と記す)は特に閉塞された環境であるため堆積物の保存状態が良好と考えられることや, 既存ボーリングコア試料が豊富であることから研究対象地に選定した.山田平野における地形分類図を作成し, ボーリングコアの分析を行った.分析は層相観察・記載, 粒度分析, 元素分析, 珪藻分析, 貝化石種の同定, テフラの同定, 放射性炭素年代測定を行った.
3.結果・考察 山田平野における完新世の古地理の復元
山田平野のコア堆積物は層相・粒径・全硫黄量・貝化石の産状等をもとに5つのユニットに区分した.各ユニットの形成年代とそれに基づく古地理の変遷は古い年代から順に次の通りである.ユニット1の形成年代は10,000年前から8,000年前頃にかけての縄文海進初期であり, 古地理は泥湿地的環境であった.ユニット2の形成年代は8,000年前から4,200年前頃にかけてであり, 縄文海進の影響により古地   理は内湾環境であった.海側にのみ認められるユニ ット3の形成年代は4,200年前から300年前頃であり, 古地理は干潟もしくは浅海環境であった.内陸側にのみ認められるユニット4の形成年代はユニット⒊と同様と推定され, 古地理は陸上環境であった.ユニット5の形成年代は300年前頃以降であり, 古地理は浜堤もしくは泥湿地的環境であった.
山田平野および三陸海岸南部における完新世地殻変動
山田平野における完新世の地殻変動の傾向は, 推定した堆積速度曲線と理論的な海水準変動曲線との比較により, 若干の沈降傾向であった可能性が示唆された(図1).これは測地学的傾向と同様の傾向である.三陸海岸南部における完新世の地殻変動は, 先行研究(丹羽ほか, 2014)との対比により, 全域で沈降傾向であった可能性が示唆された.  
引用文献 宮内(2012): 科学,82,651-661.丹羽ほか(2014): 第四紀研究, 53, 311-322.

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© 2015 公益社団法人 日本地理学会
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