抄録
北海道旭川市で毎年開かれている「私たちの身のまわりの環境地図作品展」(環境地図作品展)は、児童生徒が自らの観察・調査を地図に表現した作品の展示会である。現在は環境地図教育フェアとし、期間中は環境地図作品展の他に作品解説、特別講演、研究発表、環境地図教育研究会総会、みんなの環境地図ワークショップ、表彰式を開催している。主催は、環境地図教育研究会。一昨年は、旭川市の他に東京でも環境地図作品展を開催した。 国内で同様の地図作品展は、札幌市、仙台市、茨城県、多摩市、富山県、岐阜県、滋賀県、京都市、神戸市、赤穂市、広島県、徳島県、香川県、鳥取県、島根県、大分市などでも開かれている。また国土交通省国土地理院の「地図と測量の科学館」では1998年から毎年、「全国児童生徒地図優秀作品展」も開かれている。 環境地図作品展は、1991年8月、旭川市で「環境変化と地理情報システム国際会議」が開かれた時の付帯行事として開催されたのが初めてで、それから継続して今年で第25回目をむかえる。「身のまわりの環境」という言葉は、環境地図作品展を機に広く用いられるようになった。ここでは、これまでを振り返るとともに環境地図作品展の特色と意義について論ずる。 旭川市で開催されている環境地図作品展は、いくつかの特色がある。第1の特色は、身近な環境を題材とし、児童生徒が自ら観察・調査したことを地図に表現した作品を展示していることである。テーマの設定、調査の仕方、表現の方法などは製作者に任されているからこそ、製作者の感性や手法によりさまざまな表現が可能となり、出される作品は豊かな発想が示された興味のあるものばかりとなる。第6回からは自由テーマに加え「みどり」「音」「におい」「色」「風」「水」「むかし」「土」「安全」「あたたかさ」「ふしぎ」「美しさ」「虫」「花」「石」「防災」「食」などの指定テーマももうけた。これにより同じテーマで実に多様な地図がつくられるようになった。 第2の特色は、応募者の地域的限定が全くないことだ。応募者は、小学校から高等学校までの児童生徒に限られるが、全国どこからでも応募でき、海外からも応募できる。海外からは、ジンバブエ、タイ、モルジブ、マケドニアなど15カ国からの応募があった。1996年にはリトアニア、2006年はチェコ、1998年と2012年にはフィリピンから先生と学生が来日している。日中間の関係悪化前の2004年から2011年までは中国からの応募が多数あった。 第3の特色は、作品展の質的な向上を図るための活動である。その最も目立つものは、募集ポスターであって、前回の優秀作品10点程を掲げ、審査の際の講評の要約も記してある。また、外国人にもわかるように英語表記もしている。ポスターにカレンダーをつけることによって教室内に通年掲示され、たえず子どもたちの目に触れることは、指導に役立ち、毎年の作品の質的な向上を図ることができる。その他作品会場で配布する入賞作品リーフレットや毎年発行される環境地図教育研究会誌も作品の作成には大変参考になる。1996年と 2003年に刊行した「環境地図づくりマニュアル」は作品作成の手引き書として重要な役割を果たした。また、ホームページも作品の向上に一役を担っている。 環境地図づくりは,五感を使って環境の中のさまざまなつながりを考え、さらに見方や視野を広げていくというものである。20年前に氷見山(1995・1996)は、環境地図の作品の作業プロセスについて(1)計画立案(2)調査準備(3)調査観察(4)記録(5)地図作製(6)地図の読みとりと説明の6つの段階にわけ、それぞれの段階がもつ意味を論じている。環境地図づくりは、科学的な基礎能力と態度を身につける上で効果的なばかりでなく、さまざまな力を培い、高めることに役立つ。観察力、環境を空間的にとらえる力、地理的事象を見抜く力、どのような情報を収集すればよいか考える力、収集した情報を整理し目的に応じて表現する力、さまざまな情報メディアから適切に調べることのできる力、人と環境との相互の関係を理解する力、他の人々と協力したり交わったりする力、地図から読みとる力など、勝れて総合的な学びの機会となる。環境地図作品展に出された作品から子どもの発達過程、特に小学1年生から6年生までにどう生活空間が広がり、どう観察能力がついてきたかがわかるようになった。また、調査方法、表現のしかた、地域の様子なども学ぶことができる。環境地図は、学校づくりやまちづくり、防災やアセスメント、GISなどにも活かすことができる。まさにESD(持続可能な開発のための教育)で総合的な科学力を身につけることができる。環境地図作品展が、国内はもとより世界に広がり第25回から次の第50回へと続いてもらいたい。