日本地理学会発表要旨集
2015年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 323
会議情報

発表要旨
武蔵野台地における中期更新世の河成段丘と立川断層帯の活動の再評価
*寺口 慧介鈴木 毅彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
はじめに
武蔵野台地は古くからテフロクロノロジーに基づく地形面区分と地形発達史の検討が行なわれてきた.武蔵野台地北西部に位置する金子台・所沢台は,段丘被覆層の下部に三色アイステフラ(SIP;町田 1971)が挟在することから海洋酸素同位体ステージ(以下,MIS)5eの下末吉面に対比されていた(貝塚 1957).しかし近年ではSIPと段丘構成層の間に層厚1~1.5 mの段丘被覆層が存在することを根拠にMIS 6の地形面である可能性が指摘されている(久保ほか 2000など).寺口ほか(2014)は段丘被覆層最下部からカミングトン閃石含有クリプトテフラを検出し,飯縄上樽cテフラ(Iz-KT c),飯縄西山テフラ(Iz-NY)(早津・新井 1980など),hpm1テフラ(hpm1;岡田ほか 1990)に対比される可能性を指摘した.
金子台・所沢台を詳細に編年することは,中期更新世における地形発達過程の検討,金子台を変位させる立川断層帯の活動を評価する上で重要である.筆者らによる金子台の詳細な地形面判読の結果,金子台が2面に細分されることが明らかになり(高位から金子Ⅰ面,金子Ⅱ面と命名),これらの形成年代を明らかにするために新たにボーリングを実施した.本発表ではボーリングコアから得られた新たな知見について報告する.
調査方法
本発表で使用する3本のボーリングコア(TC-14-1~TC-14-3コア)のうち,TC-14-1コアとTC-14-2コアは金子Ⅱ面上で,TC-14-3コアは金子Ⅰ面上で掘削した.各コアの層相記載,および挟在するテフラの鉱物組成,鉱物の屈折率から既知のテフラとの対比を行なった後,SIP以下の段丘被覆層を5 cm間隔で連続採取した.連続採取試料は鉱物組成分析を行ない,クリプトテフラの可能性がある層準は重鉱物の屈折率測定,化学組成分析を行ない既知のテフラとの対比を検討した.
結果・考察
連続採取試料の鉱物組成分析の結果,すべてのコアの段丘被覆層最下部からカミングトン閃石を検出し,これらをクリプトテフラとして認定した.また,TC-14-3コアではクリプトテフラ検出層準の約1 m上位からカミングトン閃石含有火山灰層を見出した.
TC-14-1コア,TC-14-2コアから検出したクリプトテフラのカミングトン閃石の屈折率はそれぞれ幅広いレンジを示し,また,化学組成はそれぞれMg値の大小で2つのクラスタに分かれた.既知のテフラとの比較の結果,Mg値の小さいクラスタはIz-NYと,Mg値の大きいクラスタはhpm1と類似する結果となった.このことから金子Ⅱ面の段丘被覆層最下部から検出したクリプトテフラはIz-NYとhpm1の混合物と考えられる.なお,寺口ほか(2014)が所沢台(所沢面)の段丘被覆層最下部で検出したカミングトン閃石含有クリプトテフラについて化学組成分析を行なった結果,Iz-NYとhpm1の混合物に対比された.従って,金子Ⅱ面と所沢面は同一地形面と考えられる.
TC-14-3コアから検出したクリプトテフラおよび火山灰層のカミングトン閃石の屈折率・化学組成はそれぞれhpm1,Iz-NYと類似する.このことから金子Ⅰ面にはIz-NYとhpm1が分離した状態で段丘被覆層最下部に挟在することが確認された.
金子Ⅰ面ではIz-NYとhpm1が分離して挟在することに対し,金子Ⅱ面・所沢面では2つのテフラが混合した状態で挟在することから,両地形面の間に形成年代の差異があると考えられる.Iz-NY,hpm1の年代は先行研究で報告されている年代値から,それぞれ約180 ka(MIS 7/6移行期~MIS 7.1),約210 ka(MIS 7.3)とした.この年代値を用いて形成年代を推定すると,金子Ⅰ面はhpm1の年代からMIS 7.3と考えられる.金子Ⅱ面・所沢面における2テフラの混合は離水中に水流の影響を受けたためと推測した上で,地形面の形成年代をIz-NYの降灰直後のMIS 7/6移行期~MIS 7.1と推定した.以上により,従来MIS 6の地形面の可能性を指摘されていた金子台・所沢台は,さらに古いMIS 7の地形面であると考えられる.また,地形面の分布から武蔵野台地北西部に広大な扇状地を形成していたと推察される.
金子Ⅰ面,金子Ⅱ面を変位させる立川断層帯の鉛直成分の平均変位速度は0.05~0.06 m/kyとされていたが(山崎 2006),本研究で得られた金子Ⅰ面,金子Ⅱ面の形成年代を基に再計算すると0.03~0.04 m/kyと再評価され,従来の評価の3分の2程度になる.
本研究では,文科省重点調査「立川断層帯の重点的調査観測」の一環(サブテーマ2)として2014年度に東京都青梅市において採取したボーリングコアを使用した.
引用文献:早津・新井 1980. 地質学雑誌, 86: 243-263. 貝塚 1957. 地学雑誌, 66: 217-230. 久保ほか 2000. 日本地理学会発表要旨集, 57: 500-527. 町田 1971. 第四紀研究, 10: 1-20. 岡田ほか 1990. 鳥取大教育学部研報, 39: 143-160. 寺口ほか 2014. 日本第四紀学会講演要旨集, 44: 181. 山崎 2006. 月刊地球, 28: 8-16.
著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top